2007.02.04 Sunday
それでもボクはやってない


それでもボクはやってない (監督 周防正行)
2007年1月20日 劇場初公開
公式サイト: http://www.soreboku.jp/
ユナイテッド・シネマとしまえん スクリーン9 F-17
2007年2月1日(木)14時30分の回
ゴウ先生総合評価: B-
画質(ビスタ): A-
音質(SRD): A-
評価に悩む作品です。痴漢冤罪裁判の実態を暴いてくれてありがとうと高く評価するか、周防正行監督に期待していた裁判を笑いのめすコメディではないのを不満と見るか、心は千々に乱れます。
見終わった時に思ったのは、これならば周防監督が撮らなくてもよかったのではないかということでした。
確かに、痴漢冤罪裁判の矛盾を扱う映画監督は他にいないかもしれません。しかし、周防監督に期待するものを十全に出し切らないのでは、脚本と製作を周防氏が引き受け、監督を別人に依頼する手はなかったかと思うくらいです。
というのも、相当痴漢冤罪裁判に対する“怒り”が強いらしく、それがあまりにストレートに表れて、逆にリアリティを失っている印象が残るからです。
もう少し冷静に映画的快感と主張するテーマをバランスよく両立させる道がなかったかと思うのです。
結局、テーマに対する執念をB+、映画としてC-と見て、総合的にB-の総合評価にしてしまいました。
それだけ、痴漢冤罪の問題にストレートに切り込む本作、それならそれでこの種の裁判の問題すべてをきちんと語ってくれているかといえば、そうでもないような気がします。
143分かけても、まだ説明不足の感があり、次のような不満が残るのです。(本作のストーリー展開は、公式サイト等でご確認ください。)
第1に、主人公金子徹平(加瀬亮)のバックグラウンドが語られないのは、感情移入を難しくさせました。フリーターで就職面接を受けに行く途中で痴漢の容疑をかけられた可哀想な26歳の若者というだけでは、当方としては納得いきません。
たとえば、就職面接を受けに行くというのに、徹平は履歴書を忘れます。これを見ると、はたして本気で就職する気があったのかどうか怪しくなります。これは人物造形上大切なポイントだと思うのですが、無視してよいのでしょうか。
第2に、徹平を取り巻く人物たちの関係もよく分かりません。母親(もたいまさこ)とはどういう関係なのか。父親や兄弟の影が見えませんが、母ひとり息子ひとりの母子家庭なのでしょうか。山本耕史演じる友人ともどういう友達なのでしょう。気になって仕方なく、映画にのめり込めなくなりました。周防監督は、こんなに説明不足の脚本を書く人だったのでしょうか。
第3に、伏線の類がまったく使われないのも合点がいきません。たとえば、拘置所の中の生活をあれだけ描く以上、同房の人間が後から絡んでくるだろうと思ったら、それもまったくなし。本田博太郎演じるお節介な男くらいは後で登場するだろうと思っていたのですが、それもありません。ちょっと、これでは・・・。
第4に、裁判官が変わると結末が完全に読めてしまう演出もいかがなものかと思います。ニコニコして被告を冤罪から救うことに使命感を感じている正名僕蔵が、国家権力を背負ったかのような小日向文世の裁判官に変わるのです。もう少し、結末を分からなくする演技指導ができなかったものかと恨みを並べたくなります。
第5に、その意味ではタイトルの「それでもボクはやってない」自体が、結末をネタバレしているのはいかがなものでしょう。
というわけで、痴漢冤罪の恐ろしさを体験することはできますが、映画として完成度が高いかと言われると、首肯できないのでありました。
ただし、ベテラン俳優の演技には目を見張らせるものがあったのは事実です。特に、次の三者。
まず、徹平の弁護人役の役所広司。痴漢被害者の女子中学生の証言を老眼鏡越しにじっと見つめるシーン。それだけの演技に、ゴウ先生、しびれました。やはり、現代日本を代表する名優です。
次に、法廷担当検事を演じた尾美としのり。心外な展開になると、法廷でペン回しをしてエリートの嫌みをさり気なく出しています。そこら辺の中高生のようにペン回しをするこんなバカに人生を左右されると思うと、見ていて空しさと怒りがこみ上げてきました。
最後に、小日向文世。まず本作への登場の仕方がショッキングです。正名僕蔵演じる人権派の裁判官が司法修習生に「冤罪を避けるのが裁判官の務め」と論じている、その後に謎の微笑みを浮かべた小日向がかぶるのです。これだけで、悪魔の登場を感じさせます。。さらに、法廷内で証言台の被告や証人を見る目の冷たさ。上手い!と言うしかない存在感でした。
繰り返しになりますが、この内容で周防節が炸裂していたら、文句なしのA+映画だったのにと嘆くのでした。
++++++++++
画質(ビスタ): A-
185人入る第9スクリーンに7割くらいの人が入り、真ん中の見やすい席はほとんど埋まっていました。すごい人気です。
おかげで予約していたF-17の席から中央へ移動することはかなわず、かなり右側からみることになりました。しかし、絵の見え具合にはまったく問題なし。若干心配していたのですが、そんな心配を吹っ飛ばす鮮やかな絵です。邦画のレベルを越えています。
本作のカメラマンの栢野直樹といえば、ゴウ先生にとっては『火火』(レビューは、こちら!)。巧みな絵作りに感心したのを思い出しました。
音質(SRD): A-
左右の広がりはなかなか。セリフの抜けも十分。リア・サラウンドも薄いながらもしっかりあります。透明感も高く、これまた邦画のレベルを越えています。
++++++++++
気になるところを、二つほど。
☆もし削除されたシーンが大量にあって、それをつなげるともっと周防節が発揮されるというのなら、DVD発売時に「ディレクターズ・カット版」で勝負してもらえたらと願っています。
☆本作の出発点は、西武新宿線で痴漢の容疑で逮捕された矢田部孝司さんの次の本だとか。

お父さんはやってない
矢田部 孝司+あつ子
毎日同線で田無から高田馬場に通っているゴウ先生には、同線電車内で痴漢容疑をかけられた矢田部さんや別件の丸山功さん(詳しくは、こちら!)の事件が、他人事には思えません。どうやって痴漢の疑いをかけられないようにしていくかを考える教訓とさせてもらっています。とにかく、予防がすべてですから。
++++++++++
真面目な作品だし、好感のもてる作品だと認めますが、想定範囲内の展開はいただけません。『Shall We Dance?』の軽さがあったらと恨めしくなります。正直、143分、長く感じてしまいました。
とはいえ、痴漢冤罪裁判に詳しくない人にはぜひとも見てもらいたい作品であることは間違いありません。
見終わった時に思ったのは、これならば周防監督が撮らなくてもよかったのではないかということでした。
確かに、痴漢冤罪裁判の矛盾を扱う映画監督は他にいないかもしれません。しかし、周防監督に期待するものを十全に出し切らないのでは、脚本と製作を周防氏が引き受け、監督を別人に依頼する手はなかったかと思うくらいです。
というのも、相当痴漢冤罪裁判に対する“怒り”が強いらしく、それがあまりにストレートに表れて、逆にリアリティを失っている印象が残るからです。
もう少し冷静に映画的快感と主張するテーマをバランスよく両立させる道がなかったかと思うのです。
結局、テーマに対する執念をB+、映画としてC-と見て、総合的にB-の総合評価にしてしまいました。
それだけ、痴漢冤罪の問題にストレートに切り込む本作、それならそれでこの種の裁判の問題すべてをきちんと語ってくれているかといえば、そうでもないような気がします。
143分かけても、まだ説明不足の感があり、次のような不満が残るのです。(本作のストーリー展開は、公式サイト等でご確認ください。)
第1に、主人公金子徹平(加瀬亮)のバックグラウンドが語られないのは、感情移入を難しくさせました。フリーターで就職面接を受けに行く途中で痴漢の容疑をかけられた可哀想な26歳の若者というだけでは、当方としては納得いきません。
たとえば、就職面接を受けに行くというのに、徹平は履歴書を忘れます。これを見ると、はたして本気で就職する気があったのかどうか怪しくなります。これは人物造形上大切なポイントだと思うのですが、無視してよいのでしょうか。
第2に、徹平を取り巻く人物たちの関係もよく分かりません。母親(もたいまさこ)とはどういう関係なのか。父親や兄弟の影が見えませんが、母ひとり息子ひとりの母子家庭なのでしょうか。山本耕史演じる友人ともどういう友達なのでしょう。気になって仕方なく、映画にのめり込めなくなりました。周防監督は、こんなに説明不足の脚本を書く人だったのでしょうか。
第3に、伏線の類がまったく使われないのも合点がいきません。たとえば、拘置所の中の生活をあれだけ描く以上、同房の人間が後から絡んでくるだろうと思ったら、それもまったくなし。本田博太郎演じるお節介な男くらいは後で登場するだろうと思っていたのですが、それもありません。ちょっと、これでは・・・。
第4に、裁判官が変わると結末が完全に読めてしまう演出もいかがなものかと思います。ニコニコして被告を冤罪から救うことに使命感を感じている正名僕蔵が、国家権力を背負ったかのような小日向文世の裁判官に変わるのです。もう少し、結末を分からなくする演技指導ができなかったものかと恨みを並べたくなります。
第5に、その意味ではタイトルの「それでもボクはやってない」自体が、結末をネタバレしているのはいかがなものでしょう。
というわけで、痴漢冤罪の恐ろしさを体験することはできますが、映画として完成度が高いかと言われると、首肯できないのでありました。
ただし、ベテラン俳優の演技には目を見張らせるものがあったのは事実です。特に、次の三者。
まず、徹平の弁護人役の役所広司。痴漢被害者の女子中学生の証言を老眼鏡越しにじっと見つめるシーン。それだけの演技に、ゴウ先生、しびれました。やはり、現代日本を代表する名優です。
次に、法廷担当検事を演じた尾美としのり。心外な展開になると、法廷でペン回しをしてエリートの嫌みをさり気なく出しています。そこら辺の中高生のようにペン回しをするこんなバカに人生を左右されると思うと、見ていて空しさと怒りがこみ上げてきました。
最後に、小日向文世。まず本作への登場の仕方がショッキングです。正名僕蔵演じる人権派の裁判官が司法修習生に「冤罪を避けるのが裁判官の務め」と論じている、その後に謎の微笑みを浮かべた小日向がかぶるのです。これだけで、悪魔の登場を感じさせます。。さらに、法廷内で証言台の被告や証人を見る目の冷たさ。上手い!と言うしかない存在感でした。
繰り返しになりますが、この内容で周防節が炸裂していたら、文句なしのA+映画だったのにと嘆くのでした。
++++++++++
画質(ビスタ): A-
185人入る第9スクリーンに7割くらいの人が入り、真ん中の見やすい席はほとんど埋まっていました。すごい人気です。
おかげで予約していたF-17の席から中央へ移動することはかなわず、かなり右側からみることになりました。しかし、絵の見え具合にはまったく問題なし。若干心配していたのですが、そんな心配を吹っ飛ばす鮮やかな絵です。邦画のレベルを越えています。
本作のカメラマンの栢野直樹といえば、ゴウ先生にとっては『火火』(レビューは、こちら!)。巧みな絵作りに感心したのを思い出しました。
音質(SRD): A-
左右の広がりはなかなか。セリフの抜けも十分。リア・サラウンドも薄いながらもしっかりあります。透明感も高く、これまた邦画のレベルを越えています。
++++++++++
気になるところを、二つほど。
☆もし削除されたシーンが大量にあって、それをつなげるともっと周防節が発揮されるというのなら、DVD発売時に「ディレクターズ・カット版」で勝負してもらえたらと願っています。
☆本作の出発点は、西武新宿線で痴漢の容疑で逮捕された矢田部孝司さんの次の本だとか。

お父さんはやってない
矢田部 孝司+あつ子
毎日同線で田無から高田馬場に通っているゴウ先生には、同線電車内で痴漢容疑をかけられた矢田部さんや別件の丸山功さん(詳しくは、こちら!)の事件が、他人事には思えません。どうやって痴漢の疑いをかけられないようにしていくかを考える教訓とさせてもらっています。とにかく、予防がすべてですから。
++++++++++
真面目な作品だし、好感のもてる作品だと認めますが、想定範囲内の展開はいただけません。『Shall We Dance?』の軽さがあったらと恨めしくなります。正直、143分、長く感じてしまいました。
とはいえ、痴漢冤罪裁判に詳しくない人にはぜひとも見てもらいたい作品であることは間違いありません。
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