2006.12.16 Saturday
硫黄島からの手紙 (映画館篇)


硫黄島からの手紙 (監督 クリント・イーストウッド、出演 渡辺謙、二宮和也)
原題: Letters from Iwo Jima (2006)
2006年12月9日 日本初公開
公式サイト: http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
ユナイテッド・シネマとしまえん スクリーン8 H-24
2006年12月14日(木)21時15分の回
ゴウ先生総合評価: A
画質(スコープ): A-
音質(SRD/THX): A+
11月22日の試写会で鑑賞済みの本作。その顛末については、すでにレビューを書かせてもらいました(こちらを、クリック!)。
しかし、あの最悪の鑑賞環境で本作を語ったと言い切るのは悔いが残ります。劇場公開されたのを機会にもう一度見ようと思っていたのでした。
再鑑賞のために考えた映画館の条件は、二つ。第一に、最高の音響設備が備わっていること。第二に、最高の席が確保され映画に集中できるために、混雑していないこと。
そうなると、安心できるのは最新のシネコンしかありません。最初は、ユナイテッド・シネマ豊洲に行くつもりでした。幅22メートルの巨大スクリーンに最新のヤマハの音響設備が整っていますので、期待を裏切ることはないと思ったのです。
ただし、恐れたのは混んでいること。そこでレイト・ショーを狙いました。ところが、豊洲の場合始まりがいつもより早いのです。20時30分にはなかなか間に合いません。
そこで選んだのが、同じユナイテッド・シネマのとしまえん。スクリーンは幅が20メートルと若干小さくなりますが、THX認定の音が売り物のスクリーン8で公開中です。『父親たちの星条旗』(レビューは、こちら!)も同じ場所で見ています。安心して映画を楽しめるホーム・グラウンドです。
しかも、開始が9時15分。何とか都合をつけると行けないことはありません。土曜日からは、豊洲もとしまえんも小さなスクリーンでの上映に変わります。何としても金曜までに行かなければならないのです。
そこで急遽時間が空いた13日の木曜日、冷たい雨が降る中UCとしまえんに出かけたのでした。
思惑通り、館内はガラガラ。好きな席が取れました。冒頭のTHXのデモンストレーションを聴くだけで、来てよかったと思います。
最近のクリント・イーストウッド作品を語るためには、最高の音響設備が絶対に必要です。アフレコなしの一発撮りを多用するイーストウッド作品を、ちょっとでも音の悪い環境で見ると、セリフが聞き取りにくくなってしまい、映画の評価を下げてしまいます。
実際、試写会の読売ホールでは、渡辺謙や二宮和也を始めとした登場人物のセリフが拾えずに混乱させられました。
イーストウッドが音を大切にする姿勢は、最初のドリームワークスのアニメーションを無音にしたことに、すでに現れています。
そして、聞こえてくる波の音・・・。耳を澄ますと右から左から後から優しい波の音がしてきます。とても戦争映画の始まりではありません。この「静けさ」こそ、イーストウッドが本作で訴えたかったのかもしれないと思います。
悠久の自然の営みの中で、ほんの一時期砲撃と銃弾と悲鳴が錯綜した硫黄島。戦争という愚かな営みに、文字通り命を懸けた人間の愚かさを現代の硫黄島の静けさがあざ笑っているようです。
戦闘シーンの迫力は、いまやどこの映画館で見ても変わりはありません。ドーン、ズシーン、ギャー、ウッと鼓動を早めます。
問題は、どれだけ静かな環境を作り、登場人物の心の機微を音で再生できるかです。その点、UCとしまえんは最高でした。すべてのセリフが聞こえ、ひとり一人の苦悩がセリフとその無音の間から聞こえてきます。
読売ホールでは平面的だった映画の印象が、三次元的空間性をもって迫ってきます。リアリティに雲泥の差があるのです。
その結果、本作の評価を変えざるを得ませんでした。淡々と描く本作に映画的カタルシスを感じないとA-/B+を与えた試写会体験でしたが、この静けさが与えられると話は別です。
戦争の悲惨さを、誇張せずにあるがまま映し出すのは、砲撃の音の大きさではありません。それが止んだ瞬間の静けさなのです。それが今回は味わえました。
たった3週間前に見たばかりなのに、飽きることなく食い入るように見られたのも、まるで別の映画を見るかのような「静けさ」があったからです。
さらに、本作の凄さは、観客を安易なセンチメンタリズムに連れ込まないことです。涙を流す快感を奪い、ただひたすら生き地獄を眼前で見せつけるのです。
泣かせようとすれば、いくらでもそういう感傷的な場面を作れたことでしょう。しかし、イーストウッドはそうしません。
だからこそ、『父親たちの星条旗』と同様に、本作にも「英雄」を作りません。栗林忠道中将も西郷もだれも英雄に仕立て上げないのです。
英雄を作らないがゆえに、その対極にあるはずの林中将(ケン・ケンセイ)や伊藤中尉(中村獅童)の行為も卑怯なものに見えません。致し方ない帰結だったとしか言えず、とても責める気になれないのでした。
確かに、気になるキズはあります。
ひとつは家の作り。西郷の家も犬を飼っていた家も、障子が玄関に使われていましたが、そんなことはありません。
犬を飼っていた家族も着物の着こなしがどこか変です。
夜に日章旗を上げることもしなかったはず。第一、旗日以外にも毎日上げておかなければならなかったのでしょうか。
しかし、見終わるとそういうことを忘れはて、心静かに「映画」を見た喜びに浸れるのでした。
悩みましたが、A評価に上げさせてもらいます。
++++++++++
画質(スコープ): A-
画質はもう少し輪郭がシャープかと思いましたが、あくまでフィルムらしい柔らかさを持っています。少し好みと違いますが、読売ホールよりはっきり上です。
音質(SRD/THX): A+
たとえUCとしまえんに行かれても、いまは別のスクリーンに移っていますので、同じ体験をしていただくわけにはいきません。ですが、環境の良い映画館でご覧になる場合には、耳を澄まして三次元的にサラウンドする効果音を聴いてください。たとえば、壕の中のシーン。栗林中将の副官を務めている気分になれます。
++++++++++
DVDに対する注文です。この2部作を時系列を統一して再編集して収録してもらえないものでしょうか。米軍の大艦隊が押し寄せてくる中、壕を掘り続ける日本兵。見てみたいものです。感動がもう一段階上になると思います。5時間の超大作になりますが、DVDならばそれも鑑賞可能です。イーストウッドの英断に期待します。
++++++++++
書きたいことを書きつくした気がしません。じっくりとまた論じてみたい映画です。
ぜひ環境の整った映画館でご覧ください。
オススメです。
+++++関連記事+++++
『硫黄島からの手紙』(試写会)
『父親たちの星条旗』
しかし、あの最悪の鑑賞環境で本作を語ったと言い切るのは悔いが残ります。劇場公開されたのを機会にもう一度見ようと思っていたのでした。
再鑑賞のために考えた映画館の条件は、二つ。第一に、最高の音響設備が備わっていること。第二に、最高の席が確保され映画に集中できるために、混雑していないこと。
そうなると、安心できるのは最新のシネコンしかありません。最初は、ユナイテッド・シネマ豊洲に行くつもりでした。幅22メートルの巨大スクリーンに最新のヤマハの音響設備が整っていますので、期待を裏切ることはないと思ったのです。
ただし、恐れたのは混んでいること。そこでレイト・ショーを狙いました。ところが、豊洲の場合始まりがいつもより早いのです。20時30分にはなかなか間に合いません。
そこで選んだのが、同じユナイテッド・シネマのとしまえん。スクリーンは幅が20メートルと若干小さくなりますが、THX認定の音が売り物のスクリーン8で公開中です。『父親たちの星条旗』(レビューは、こちら!)も同じ場所で見ています。安心して映画を楽しめるホーム・グラウンドです。
しかも、開始が9時15分。何とか都合をつけると行けないことはありません。土曜日からは、豊洲もとしまえんも小さなスクリーンでの上映に変わります。何としても金曜までに行かなければならないのです。
そこで急遽時間が空いた13日の木曜日、冷たい雨が降る中UCとしまえんに出かけたのでした。
思惑通り、館内はガラガラ。好きな席が取れました。冒頭のTHXのデモンストレーションを聴くだけで、来てよかったと思います。
最近のクリント・イーストウッド作品を語るためには、最高の音響設備が絶対に必要です。アフレコなしの一発撮りを多用するイーストウッド作品を、ちょっとでも音の悪い環境で見ると、セリフが聞き取りにくくなってしまい、映画の評価を下げてしまいます。
実際、試写会の読売ホールでは、渡辺謙や二宮和也を始めとした登場人物のセリフが拾えずに混乱させられました。
イーストウッドが音を大切にする姿勢は、最初のドリームワークスのアニメーションを無音にしたことに、すでに現れています。
そして、聞こえてくる波の音・・・。耳を澄ますと右から左から後から優しい波の音がしてきます。とても戦争映画の始まりではありません。この「静けさ」こそ、イーストウッドが本作で訴えたかったのかもしれないと思います。
悠久の自然の営みの中で、ほんの一時期砲撃と銃弾と悲鳴が錯綜した硫黄島。戦争という愚かな営みに、文字通り命を懸けた人間の愚かさを現代の硫黄島の静けさがあざ笑っているようです。
戦闘シーンの迫力は、いまやどこの映画館で見ても変わりはありません。ドーン、ズシーン、ギャー、ウッと鼓動を早めます。
問題は、どれだけ静かな環境を作り、登場人物の心の機微を音で再生できるかです。その点、UCとしまえんは最高でした。すべてのセリフが聞こえ、ひとり一人の苦悩がセリフとその無音の間から聞こえてきます。
読売ホールでは平面的だった映画の印象が、三次元的空間性をもって迫ってきます。リアリティに雲泥の差があるのです。
その結果、本作の評価を変えざるを得ませんでした。淡々と描く本作に映画的カタルシスを感じないとA-/B+を与えた試写会体験でしたが、この静けさが与えられると話は別です。
戦争の悲惨さを、誇張せずにあるがまま映し出すのは、砲撃の音の大きさではありません。それが止んだ瞬間の静けさなのです。それが今回は味わえました。
たった3週間前に見たばかりなのに、飽きることなく食い入るように見られたのも、まるで別の映画を見るかのような「静けさ」があったからです。
さらに、本作の凄さは、観客を安易なセンチメンタリズムに連れ込まないことです。涙を流す快感を奪い、ただひたすら生き地獄を眼前で見せつけるのです。
泣かせようとすれば、いくらでもそういう感傷的な場面を作れたことでしょう。しかし、イーストウッドはそうしません。
だからこそ、『父親たちの星条旗』と同様に、本作にも「英雄」を作りません。栗林忠道中将も西郷もだれも英雄に仕立て上げないのです。
英雄を作らないがゆえに、その対極にあるはずの林中将(ケン・ケンセイ)や伊藤中尉(中村獅童)の行為も卑怯なものに見えません。致し方ない帰結だったとしか言えず、とても責める気になれないのでした。
確かに、気になるキズはあります。
ひとつは家の作り。西郷の家も犬を飼っていた家も、障子が玄関に使われていましたが、そんなことはありません。
犬を飼っていた家族も着物の着こなしがどこか変です。
夜に日章旗を上げることもしなかったはず。第一、旗日以外にも毎日上げておかなければならなかったのでしょうか。
しかし、見終わるとそういうことを忘れはて、心静かに「映画」を見た喜びに浸れるのでした。
悩みましたが、A評価に上げさせてもらいます。
++++++++++
画質(スコープ): A-
画質はもう少し輪郭がシャープかと思いましたが、あくまでフィルムらしい柔らかさを持っています。少し好みと違いますが、読売ホールよりはっきり上です。
音質(SRD/THX): A+
たとえUCとしまえんに行かれても、いまは別のスクリーンに移っていますので、同じ体験をしていただくわけにはいきません。ですが、環境の良い映画館でご覧になる場合には、耳を澄まして三次元的にサラウンドする効果音を聴いてください。たとえば、壕の中のシーン。栗林中将の副官を務めている気分になれます。
++++++++++
DVDに対する注文です。この2部作を時系列を統一して再編集して収録してもらえないものでしょうか。米軍の大艦隊が押し寄せてくる中、壕を掘り続ける日本兵。見てみたいものです。感動がもう一段階上になると思います。5時間の超大作になりますが、DVDならばそれも鑑賞可能です。イーストウッドの英断に期待します。
++++++++++
書きたいことを書きつくした気がしません。じっくりとまた論じてみたい映画です。
ぜひ環境の整った映画館でご覧ください。
オススメです。
+++++関連記事+++++
『硫黄島からの手紙』(試写会)
『父親たちの星条旗』