2006.10.04 Wednesday
プライド 栄光への絆 (DVD)
プライド 栄光への絆
原題: Friday Night Lights (2004)
2005年5月14日 日本初公開
公式サイト(英文): http://www.fridaynightlightsmovie.com/
ゴウ先生総合ランキング: A-/B+
画質(ビスタ): A-
音質(ドルビーデジタル5.1ch): A-/B+
英語学習用教材度: A+
想像を大きく裏切られました。良い意味でも、悪い意味でも。
『プライド 栄光への絆』という邦題だけ見ると、キムタクのアイスホッケー・ドラマと区別がつかなくなります。日本人受けしそうなタイトルですが、ゴウ先生は決してよい翻訳だとは思いません。
原題は「金曜の夜の光」。アメリカン・フットボールに関心をもった人にはこれだけでイメージできる言葉です。
アメリカの秋は、アメフト・ファンにはたまらない季節です。金曜の夜のハイスクールに始まり、土曜のカレッジ、そして日曜ならびに月曜の夜のプロ(NFL)とどっぷりアメフトの世界に浸れるからです。
しかし、通常アメリカでも話題に上るのは、カレッジかプロの試合。ハイスクールのそれはあくまでその高校のある地元だけの話題に過ぎません。
ちなみにゴウ先生はアイオワ大学のあるアイオワ・シティという町に6年間住みましたが、Big Tenというリーグに入っている母校のアメフトの試合は見に行ったことがありますが、高校の試合には一度も足を運んだことがありません。
それが普通の州なのです。
ところが、違うところがひとつだけありました。テキサスです。高校生のアメフト・チームなのに、テキサス州の州大会で1位になるために、有力校になると何億円という単位の年間予算を使って強化に努めるというのですから、あきれ返ります。
実際、高校生の金曜の夜の試合に地元の人のほとんどが観戦に出かけ、スタンドは2万人以上の人で膨れ上がり、州大会の決勝戦はNFLのヒューストン・オイラーズとMLBのヒューストン・アストロズの本拠地であるアストロドームに5万5千人以上の観客を動員できるというのですから、恐れ入ります。
この異常な高校アメフト人気を取り上げたドキュメンタリーを原作に辣腕プロデューサー・ブライアン・グレイザー(『ビューティフル・マインド』)が注目し映画化されたものが本作。
実際、本作のメイキングで監督を引き受けたニューヨーク出身のピーター・バーグも「信じられない」熱狂と語っています。
本作を見ると、アメリカが50の独立した「国家」(state)からできあがった「連邦」であることがよく理解できます。
さて、そうして始まる本作。舞台は1988年夏。テキサスのオデッサという片田舎にあるパーミアン高校パンサーズ。ヘッドコーチのゲイリー・ゲインズ(ビリー・ボブ・ソーントン)の指揮下、州チャンピオンになるべくキャンプに入っています。
キャンプには毎日朝から熱心な親や地元の人が数百名集まるのみならず、有名大学のスカウトたちが真剣な目つきで選手たちの動きを追い、そして地元テレビ局が毎日その様子を報道します。
その光景はまるでプロのそれ。日本の高校野球でもここまで周囲の注目を集めることはないはずです。いかな「ハンカチ王子」であっても。
それだけ注目される選手たち。女の子からも異常なほどもてます。高校生だとは思えない大胆なアプローチが本作には登場しますが、それがフィクションに思えません。
さらに、映し出されるロッカー・ルームとウエイト・トレーニング・ルームの豪華さ。高校なのにまるで大学かプロのように充実した施設です。専門のトレーナーが何人もいてテーピングをどんどん練習前の選手に施しています。開いた口がふさがりません。
金をかけています。テキサスです。
シーズンが始まると、そこに映し出されるのは勝利に対する周囲からの圧力です。町の有力者たちからヘッドコーチは負けるとクビだと脅かされ、選手は活躍してチームを勝利に導き大学に引っ張ってもらおうと己が限界までがんばります。
その結果生じるブービー(デレク・ルーク)という黒人の主力選手の再起不能のケガ。彼の人生が17歳ですべて終わりを告げる残酷さです。大学に入って活躍し、NFLで巨万の富を築く。それしか道のない貧しいブービー。その夢が試合中のケガで水泡と帰したのでした。
しかし、チームは勝ち続けなければなりません。無駄な感傷は不要なのです。さもなければ、ヘッドコーチは次の職探しを余儀なくされます。
そうして、ブービーに代わるポイントゲッターを育て、パンサーズは州大会の決勝まで勝ち進むことになるのでした。
ともあれ、本作は主人公を個人に特定することができません。強いて言うならば、「テキサス州」が主人公。
ヘッドコーチ役のソーントンも、決してヒーローではありません。控えめな演技によって、勝たねば失業するというコーチ業の辛さだけがよく伝わってきます。
もちろん映画ですから、数人の選手に焦って描きます。しかし、だれかに突出してスポットライトが当たることはないのです。
その上、選手の未来に夢を重ねる親の存在が絡みます。
このようにしてテキサスという異常な土地の中で運命を翻弄される関係者たちの姿をドキュメンタリー・タッチで追うことで、見る者に切ないまでの厳しい現実を見せてくれるのでした。
感動的で単純な青春ドラマを期待しては、ゴウ先生のように、裏切られます。テキサスのハイスクール・アメフトを冷徹なビジネスとして描いた作品として見る。そうすると、得るところが多い作品となることでしょう。
++++++++++
画質(ビスタ): A-
Gump Theatreの120インチ・スクリーンにおいても、かなり肌理の細かい繊細な絵が展開します。動きが速い試合のシーンなどでも問題なく楽しめます。透明感がもう少し高く、暗部の階調が滑らかならば完璧です。
音質(ドルビーデジタル5.1ch): A-/B+
音はよく回りますし、重低音もぐっと来るのですが、映画を盛り上げる迫力に欠ける感じがします。
英語学習用教材度: A+
本編に英語字幕・日本語吹替えつきはもちろんのこと、特典映像にも英語字幕がつきます。下品な英語や訛りの強い英語も頻繁に登場しますが、アメフト・ファンの方にはベストのテクストでしょう。
++++++++++
気になるところを、アト・ランダムに。
☆ビリー・ボブ・ソーントン。彼に何もさせない抑制したストーリー展開と演出なのに驚きました。選手たちに対してわめき散らすような場面もほとんどありません。こういうアメフトのヘッドコーチもいるのだと、逆に感心したくらいです。
☆ゴウ先生はカントリー音楽のファンではないので知らなかったのですが、アメリカで凄い人気だというカントリー・シンガーのティム・マッグロウ。息子に自分の夢を託すステージ・パパを演じていて目を引きました。ゴウ先生も2人の息子の父親として共感できる部分もあったのですが、あそこまでの干渉はできません。
☆ジェイ・フェルナンデス演じるブライアン・チャベスというメキシコ系の選手。高校卒業後ハーバード大学に進学し、弁護士になったということです。別の意味でのアメリカン・ドリームの実現者がここにいました。
☆ちなみに1988年のパンサーズから大学に特待生として入れたのは1人だけ。厳しい現実です。
☆ゴウ先生がアメリカ留学を始めたのが、1988年。アメリカ生活に馴染もうと必死にキャッチアップしていた時期に、こういうドラマがテキサスで起きているとは知りもしませんでした。大学とプロのアメフトの試合はよく見ていたのですが。
++++++++++
アメリカ留学、アメリカ人(特にテキサス人)相手のビジネスを真剣に考えている人、ならびにアメフトを始めとするアメリカのスポーツに関心のある人ならば、本作は絶対に見逃せない一本です。
しかも、11月には1000円を切る値段で再発されます。お薦めです。
『プライド 栄光への絆』という邦題だけ見ると、キムタクのアイスホッケー・ドラマと区別がつかなくなります。日本人受けしそうなタイトルですが、ゴウ先生は決してよい翻訳だとは思いません。
原題は「金曜の夜の光」。アメリカン・フットボールに関心をもった人にはこれだけでイメージできる言葉です。
アメリカの秋は、アメフト・ファンにはたまらない季節です。金曜の夜のハイスクールに始まり、土曜のカレッジ、そして日曜ならびに月曜の夜のプロ(NFL)とどっぷりアメフトの世界に浸れるからです。
しかし、通常アメリカでも話題に上るのは、カレッジかプロの試合。ハイスクールのそれはあくまでその高校のある地元だけの話題に過ぎません。
ちなみにゴウ先生はアイオワ大学のあるアイオワ・シティという町に6年間住みましたが、Big Tenというリーグに入っている母校のアメフトの試合は見に行ったことがありますが、高校の試合には一度も足を運んだことがありません。
それが普通の州なのです。
ところが、違うところがひとつだけありました。テキサスです。高校生のアメフト・チームなのに、テキサス州の州大会で1位になるために、有力校になると何億円という単位の年間予算を使って強化に努めるというのですから、あきれ返ります。
実際、高校生の金曜の夜の試合に地元の人のほとんどが観戦に出かけ、スタンドは2万人以上の人で膨れ上がり、州大会の決勝戦はNFLのヒューストン・オイラーズとMLBのヒューストン・アストロズの本拠地であるアストロドームに5万5千人以上の観客を動員できるというのですから、恐れ入ります。
この異常な高校アメフト人気を取り上げたドキュメンタリーを原作に辣腕プロデューサー・ブライアン・グレイザー(『ビューティフル・マインド』)が注目し映画化されたものが本作。
実際、本作のメイキングで監督を引き受けたニューヨーク出身のピーター・バーグも「信じられない」熱狂と語っています。
本作を見ると、アメリカが50の独立した「国家」(state)からできあがった「連邦」であることがよく理解できます。
さて、そうして始まる本作。舞台は1988年夏。テキサスのオデッサという片田舎にあるパーミアン高校パンサーズ。ヘッドコーチのゲイリー・ゲインズ(ビリー・ボブ・ソーントン)の指揮下、州チャンピオンになるべくキャンプに入っています。
キャンプには毎日朝から熱心な親や地元の人が数百名集まるのみならず、有名大学のスカウトたちが真剣な目つきで選手たちの動きを追い、そして地元テレビ局が毎日その様子を報道します。
その光景はまるでプロのそれ。日本の高校野球でもここまで周囲の注目を集めることはないはずです。いかな「ハンカチ王子」であっても。
それだけ注目される選手たち。女の子からも異常なほどもてます。高校生だとは思えない大胆なアプローチが本作には登場しますが、それがフィクションに思えません。
さらに、映し出されるロッカー・ルームとウエイト・トレーニング・ルームの豪華さ。高校なのにまるで大学かプロのように充実した施設です。専門のトレーナーが何人もいてテーピングをどんどん練習前の選手に施しています。開いた口がふさがりません。
金をかけています。テキサスです。
シーズンが始まると、そこに映し出されるのは勝利に対する周囲からの圧力です。町の有力者たちからヘッドコーチは負けるとクビだと脅かされ、選手は活躍してチームを勝利に導き大学に引っ張ってもらおうと己が限界までがんばります。
その結果生じるブービー(デレク・ルーク)という黒人の主力選手の再起不能のケガ。彼の人生が17歳ですべて終わりを告げる残酷さです。大学に入って活躍し、NFLで巨万の富を築く。それしか道のない貧しいブービー。その夢が試合中のケガで水泡と帰したのでした。
しかし、チームは勝ち続けなければなりません。無駄な感傷は不要なのです。さもなければ、ヘッドコーチは次の職探しを余儀なくされます。
そうして、ブービーに代わるポイントゲッターを育て、パンサーズは州大会の決勝まで勝ち進むことになるのでした。
ともあれ、本作は主人公を個人に特定することができません。強いて言うならば、「テキサス州」が主人公。
ヘッドコーチ役のソーントンも、決してヒーローではありません。控えめな演技によって、勝たねば失業するというコーチ業の辛さだけがよく伝わってきます。
もちろん映画ですから、数人の選手に焦って描きます。しかし、だれかに突出してスポットライトが当たることはないのです。
その上、選手の未来に夢を重ねる親の存在が絡みます。
このようにしてテキサスという異常な土地の中で運命を翻弄される関係者たちの姿をドキュメンタリー・タッチで追うことで、見る者に切ないまでの厳しい現実を見せてくれるのでした。
感動的で単純な青春ドラマを期待しては、ゴウ先生のように、裏切られます。テキサスのハイスクール・アメフトを冷徹なビジネスとして描いた作品として見る。そうすると、得るところが多い作品となることでしょう。
++++++++++
画質(ビスタ): A-
Gump Theatreの120インチ・スクリーンにおいても、かなり肌理の細かい繊細な絵が展開します。動きが速い試合のシーンなどでも問題なく楽しめます。透明感がもう少し高く、暗部の階調が滑らかならば完璧です。
音質(ドルビーデジタル5.1ch): A-/B+
音はよく回りますし、重低音もぐっと来るのですが、映画を盛り上げる迫力に欠ける感じがします。
英語学習用教材度: A+
本編に英語字幕・日本語吹替えつきはもちろんのこと、特典映像にも英語字幕がつきます。下品な英語や訛りの強い英語も頻繁に登場しますが、アメフト・ファンの方にはベストのテクストでしょう。
++++++++++
気になるところを、アト・ランダムに。
☆ビリー・ボブ・ソーントン。彼に何もさせない抑制したストーリー展開と演出なのに驚きました。選手たちに対してわめき散らすような場面もほとんどありません。こういうアメフトのヘッドコーチもいるのだと、逆に感心したくらいです。
☆ゴウ先生はカントリー音楽のファンではないので知らなかったのですが、アメリカで凄い人気だというカントリー・シンガーのティム・マッグロウ。息子に自分の夢を託すステージ・パパを演じていて目を引きました。ゴウ先生も2人の息子の父親として共感できる部分もあったのですが、あそこまでの干渉はできません。
☆ジェイ・フェルナンデス演じるブライアン・チャベスというメキシコ系の選手。高校卒業後ハーバード大学に進学し、弁護士になったということです。別の意味でのアメリカン・ドリームの実現者がここにいました。
☆ちなみに1988年のパンサーズから大学に特待生として入れたのは1人だけ。厳しい現実です。
☆ゴウ先生がアメリカ留学を始めたのが、1988年。アメリカ生活に馴染もうと必死にキャッチアップしていた時期に、こういうドラマがテキサスで起きているとは知りもしませんでした。大学とプロのアメフトの試合はよく見ていたのですが。
++++++++++
アメリカ留学、アメリカ人(特にテキサス人)相手のビジネスを真剣に考えている人、ならびにアメフトを始めとするアメリカのスポーツに関心のある人ならば、本作は絶対に見逃せない一本です。
しかも、11月には1000円を切る値段で再発されます。お薦めです。