2006.04.20 Thursday
リバティーン

原題: The Libertine (2006)
2006年4月8日日本初公開
公式サイト: http://www.libertine.jp/
新宿テアトルタイムズスクエア
2006年4月19日(水)4時10分からの回
ゴウ先生ランキング: C+
★何と、当日3本目!
池袋の新文芸座で『Mr.&Mrs.スミス』と『スタンドアップ』を3時30分に見終わるやいなやすぐにそこを後にし、新宿テアトルタイムズスクエアに一目散で駆け込みました。
来週以降忙しくなりますし、前の2本は4月21日までの上映ですから、ここで無理をして見ておかないとどの作品も映画館で見られなくなると思っての非常手段です。
そしたらば、高島屋12階のチケット売り場に到着したのが、3時52分。ドア・トゥー・ドアで22分の移動時間。快挙です(!?)。
焦って向かったのには訳があります。本作がいまや飛ぶ鳥を落とす勢いのジョニー・デップの最新作であることに加えて、当ブログでは何度も紹介している通り、テアトル系の映画館は水曜日だと男性も1000円で見られるので、混雑する可能性が高いからです。
しかし、思ったほど混んでおらず、340席の館内に218番目にもぐりこめました。
前の座席との間が狭いこの小屋では、最前列の真ん中を狙うことがよくあります。そこだと足をゆっくり伸ばせると同時に大概空いているからです。今日もその位置にしました。
ただし、ひとつ失敗しました。真ん中に走る通路のスクリーンに向かって左側に座ったのですが、右側の座席の下に設けられた足元を照らすライトが目障りだったのです。
そして、このことと力作2本を見てきた疲れとが本作の評価に微妙な影を投げかけました。
★面白い映画だとは思うが・・・
17世紀の後半に活躍した英国の放蕩詩人、ロチェスター伯爵こと詩人のジョン・ウィルモットの33年間の短い半生を、彼のスキャンダラスな生き方に焦点を当てて描く作品です。
ゴウ先生、アメリカ留学時代17世紀のヨーロッパ哲学を専門に研究していましたので、本作が描く時代には並々ならぬ関心がありました。しかも、あのデップがこの奇人伯爵を演じるというのです。どんな作品になるか、公開前から大いに期待を寄せていたのでした。
ところが、障害が待ち受けていました。何たる画質の悪さ!
この小屋では『ベニスの商人』の時も画質に文句をつけましたが、それよりもはるかに悪い画質です。フィルム映像らしいエッジを立てないマイルドな画質とも呼べないほど、ボケボケです。
しかも、映画の性格上、照明を落としたシーンが山と出てきます。その度に細部がよく見えなくなります。暗部の諧調がほとんど分からないのです。
新文芸座のよく調整された素晴らしい映像を見てきたばかりなので、唖然として腹さえ立ってきました。
それに、出だしのテンポがよくありません。疲れも出て、ウトウトしてしまいました。観客を映画の世界に引きずりこむ技をもっと飛ばしてほしいものです。この辺、新人監督の限界でしょうか。
こりゃいかんと思って眠気をはらってスクリーンに集中しようと思っても、右側から目の中に入って来る足元のライトがボケボケのスクリーンとあいまって映画に集中させてくれません。
しかも、眠る人が続出したのでしょう。いびきがあちこちから聞こえる始末。
正直、参りました。
★母娘で見に来る映画じゃない
ゴウ先生の真後ろの席は、母と娘のペアでした。ところが、映画は全編卑猥なシーンと言葉だらけ。余計なことですが、こんなものを年頃の娘さんを連れて見に来てよいのだろうかと心配になったほどです。ゴウ先生と同じく、ほとんど予習せずに見にこられたのでしょう。
個人的には、中盤以降、エリザベス・バリーという女優(サマンサ・モートン)を育て上げる付近から、映画が動き出し、少しずつ集中できるようになってきました。
そして、迎えた国王とフランス大使を前にした反体制の内容を含んだ舞台のシーンに至っては、その極度な卑猥さに、これはデップでなければロチェスター伯爵は演じられなかったと感心さえするようになったのです。何せ舞台の上で役者たちにマスターベーションと実際のセックスをやらせようという芝居なのですから。
国王チャールズ二世役としても出演しているジョン・マルコビッチが、デップを主役に置いた本作を製作したくなった意味も分かります。
実際の伯爵も本作で描かれたほど、セックスと酒にうつつを抜かしていたらしいのですが、デップのおかげで、『ナインスゲート』の妖しさは十分に出て、ひとつの作品に仕上がっています。彼以外だと、単に出来の悪いポルノ映画になっていたことでしょう。
ただし、ここまでショッキングな人物を取り上げるのなら、デップにはもうひとつ覚悟を決めてもらって、『愛のコリーダ』のデップ版を作ってもらいたかった恨みが残ります。言葉はどれだけ卑猥でも実際のセックスシーンは実にソフトなのです。
セックスと酒と芸術に命を懸けた男を描くには、めちゃくちゃハードコアな体当たり演技で臨んでもらいたかったものです。
さらに、この映画、実は笑って見てほしいと思われる節がいくつもあるのですが、会場に笑い声が起きません。ゴウ先生、仕方なく、声を殺して笑っていたくらいです。
セックスと酒に溺れて人生を駄目にした男を描くのです。笑うしかないではないですか。演出側ももっと安心して笑えるように作ってもらいたかったものでした。
そのくらいのドギツサがないと、「この物語を見ると、私のことが嫌いになるだろう」と冒頭と結末で観客に語りかけるロチェスター伯爵のモノローグが虚しく響くことになります。
したがって、“Do you like me now?”と伯爵が最後に3回ほど繰り返し問いかけますが、ゴウ先生は今日の上映状態だと、“So-so.”(まあまあ)と気のない返事をせざるを得ません。残念ながら。
++++++++++
画質 (スコープ): D
上記したように、商業映画としては、到底許せないレベルの画質。映画館側も少し対策を取ってもらわないと。
音質(ドルビー・サラウンド?): B-
サラウンドもあるにはありますが、微々たるもの。音が移動するのは感じられますが、音自体あまり広がりませんし、奥行きも感じられません。素晴らしいバロック音楽がもっと深々としたように聞こえて欲しい気がしました。
英語学習用教材度: C
『スタンドアップ』とどっこいどっこいの下品さ。男女の性器を意味する単語を覚えたい人にはうってつけでしょう(!)。ちょっと勧めかねます。
++++++++++
気になるところを、アト・ランダムに。
☆伯爵が国王を前にした公演を失敗した後、梅毒の症状が現れて登場するデップの演技は見ものです。
☆実際のエリザベス・バリーはそれほど美人ではなかったといわれていますが、サマンサ・モートンではこの役にミスキャストだったような気がします。舞台では、本作で伯爵夫人役のロザムンド・パイクが演じたということですが、それが正解だった気がします。モートンはもっとファンタジックな役どころが似合うと思うのです。『マイノリティ・レポート』や『イン・アメリカ 三つの小さな願いごと』のように。
☆そのパイク。彼女を見られたことがこの映画の最大の収穫でした。清楚で芯の強い伯爵夫人の役を凛として演じています。これからの彼女を大いに期待したいものです。

☆ジョン・マルコビッチが、巨大な鼻で登場します。チャールズ2世はあんなに鼻が大きかったのでしょうか?ただし、マルコビッチにはもっとおどろおどろしい役を期待していたので、意外とまともな国王を演じていたので拍子抜けしてしまいました。
☆17世紀のイギリスの不潔さが、もうひとつの主役です。雨が多いイギリス。道はすぐにぬかるみます。馬車も走れないほどです。そんな生活の中、風呂など入らないのでしょう。伯爵の手の爪垢がびっしりなのが彼の短命さを表している気がしました。
☆アメリカでの公開が今年の3月10日。興行的には相当苦戦しているようです。どうなるでしょうか。ちなみに冒頭のポスターは、オリジナルのものです。
++++++++++
デップ・ファンだからといって、女性の方は見に行く場合はくれぐれも気をつけてください。見るに忍びないシーンが多いことは事実です。
それと、前述しているように、本作をテアトルタイムズスクエアで見るのはあまりお勧めしません。他の映画館を検討して下さい。大きなスクリーンなので迫力はすごいのですが・・・。
というわけで、もう一度よりより上映環境で見てみたい映画です。それまで、評価は厳しいものにさせてもらいます。
池袋の新文芸座で『Mr.&Mrs.スミス』と『スタンドアップ』を3時30分に見終わるやいなやすぐにそこを後にし、新宿テアトルタイムズスクエアに一目散で駆け込みました。
来週以降忙しくなりますし、前の2本は4月21日までの上映ですから、ここで無理をして見ておかないとどの作品も映画館で見られなくなると思っての非常手段です。
そしたらば、高島屋12階のチケット売り場に到着したのが、3時52分。ドア・トゥー・ドアで22分の移動時間。快挙です(!?)。
焦って向かったのには訳があります。本作がいまや飛ぶ鳥を落とす勢いのジョニー・デップの最新作であることに加えて、当ブログでは何度も紹介している通り、テアトル系の映画館は水曜日だと男性も1000円で見られるので、混雑する可能性が高いからです。
しかし、思ったほど混んでおらず、340席の館内に218番目にもぐりこめました。
前の座席との間が狭いこの小屋では、最前列の真ん中を狙うことがよくあります。そこだと足をゆっくり伸ばせると同時に大概空いているからです。今日もその位置にしました。
ただし、ひとつ失敗しました。真ん中に走る通路のスクリーンに向かって左側に座ったのですが、右側の座席の下に設けられた足元を照らすライトが目障りだったのです。
そして、このことと力作2本を見てきた疲れとが本作の評価に微妙な影を投げかけました。
★面白い映画だとは思うが・・・
17世紀の後半に活躍した英国の放蕩詩人、ロチェスター伯爵こと詩人のジョン・ウィルモットの33年間の短い半生を、彼のスキャンダラスな生き方に焦点を当てて描く作品です。
ゴウ先生、アメリカ留学時代17世紀のヨーロッパ哲学を専門に研究していましたので、本作が描く時代には並々ならぬ関心がありました。しかも、あのデップがこの奇人伯爵を演じるというのです。どんな作品になるか、公開前から大いに期待を寄せていたのでした。
ところが、障害が待ち受けていました。何たる画質の悪さ!
この小屋では『ベニスの商人』の時も画質に文句をつけましたが、それよりもはるかに悪い画質です。フィルム映像らしいエッジを立てないマイルドな画質とも呼べないほど、ボケボケです。
しかも、映画の性格上、照明を落としたシーンが山と出てきます。その度に細部がよく見えなくなります。暗部の諧調がほとんど分からないのです。
新文芸座のよく調整された素晴らしい映像を見てきたばかりなので、唖然として腹さえ立ってきました。
それに、出だしのテンポがよくありません。疲れも出て、ウトウトしてしまいました。観客を映画の世界に引きずりこむ技をもっと飛ばしてほしいものです。この辺、新人監督の限界でしょうか。
こりゃいかんと思って眠気をはらってスクリーンに集中しようと思っても、右側から目の中に入って来る足元のライトがボケボケのスクリーンとあいまって映画に集中させてくれません。
しかも、眠る人が続出したのでしょう。いびきがあちこちから聞こえる始末。
正直、参りました。
★母娘で見に来る映画じゃない
ゴウ先生の真後ろの席は、母と娘のペアでした。ところが、映画は全編卑猥なシーンと言葉だらけ。余計なことですが、こんなものを年頃の娘さんを連れて見に来てよいのだろうかと心配になったほどです。ゴウ先生と同じく、ほとんど予習せずに見にこられたのでしょう。
個人的には、中盤以降、エリザベス・バリーという女優(サマンサ・モートン)を育て上げる付近から、映画が動き出し、少しずつ集中できるようになってきました。
そして、迎えた国王とフランス大使を前にした反体制の内容を含んだ舞台のシーンに至っては、その極度な卑猥さに、これはデップでなければロチェスター伯爵は演じられなかったと感心さえするようになったのです。何せ舞台の上で役者たちにマスターベーションと実際のセックスをやらせようという芝居なのですから。
国王チャールズ二世役としても出演しているジョン・マルコビッチが、デップを主役に置いた本作を製作したくなった意味も分かります。
実際の伯爵も本作で描かれたほど、セックスと酒にうつつを抜かしていたらしいのですが、デップのおかげで、『ナインスゲート』の妖しさは十分に出て、ひとつの作品に仕上がっています。彼以外だと、単に出来の悪いポルノ映画になっていたことでしょう。
ただし、ここまでショッキングな人物を取り上げるのなら、デップにはもうひとつ覚悟を決めてもらって、『愛のコリーダ』のデップ版を作ってもらいたかった恨みが残ります。言葉はどれだけ卑猥でも実際のセックスシーンは実にソフトなのです。
セックスと酒と芸術に命を懸けた男を描くには、めちゃくちゃハードコアな体当たり演技で臨んでもらいたかったものです。
さらに、この映画、実は笑って見てほしいと思われる節がいくつもあるのですが、会場に笑い声が起きません。ゴウ先生、仕方なく、声を殺して笑っていたくらいです。
セックスと酒に溺れて人生を駄目にした男を描くのです。笑うしかないではないですか。演出側ももっと安心して笑えるように作ってもらいたかったものでした。
そのくらいのドギツサがないと、「この物語を見ると、私のことが嫌いになるだろう」と冒頭と結末で観客に語りかけるロチェスター伯爵のモノローグが虚しく響くことになります。
したがって、“Do you like me now?”と伯爵が最後に3回ほど繰り返し問いかけますが、ゴウ先生は今日の上映状態だと、“So-so.”(まあまあ)と気のない返事をせざるを得ません。残念ながら。
++++++++++
画質 (スコープ): D
上記したように、商業映画としては、到底許せないレベルの画質。映画館側も少し対策を取ってもらわないと。
音質(ドルビー・サラウンド?): B-
サラウンドもあるにはありますが、微々たるもの。音が移動するのは感じられますが、音自体あまり広がりませんし、奥行きも感じられません。素晴らしいバロック音楽がもっと深々としたように聞こえて欲しい気がしました。
英語学習用教材度: C
『スタンドアップ』とどっこいどっこいの下品さ。男女の性器を意味する単語を覚えたい人にはうってつけでしょう(!)。ちょっと勧めかねます。
++++++++++
気になるところを、アト・ランダムに。
☆伯爵が国王を前にした公演を失敗した後、梅毒の症状が現れて登場するデップの演技は見ものです。
☆実際のエリザベス・バリーはそれほど美人ではなかったといわれていますが、サマンサ・モートンではこの役にミスキャストだったような気がします。舞台では、本作で伯爵夫人役のロザムンド・パイクが演じたということですが、それが正解だった気がします。モートンはもっとファンタジックな役どころが似合うと思うのです。『マイノリティ・レポート』や『イン・アメリカ 三つの小さな願いごと』のように。
☆そのパイク。彼女を見られたことがこの映画の最大の収穫でした。清楚で芯の強い伯爵夫人の役を凛として演じています。これからの彼女を大いに期待したいものです。

☆ジョン・マルコビッチが、巨大な鼻で登場します。チャールズ2世はあんなに鼻が大きかったのでしょうか?ただし、マルコビッチにはもっとおどろおどろしい役を期待していたので、意外とまともな国王を演じていたので拍子抜けしてしまいました。
☆17世紀のイギリスの不潔さが、もうひとつの主役です。雨が多いイギリス。道はすぐにぬかるみます。馬車も走れないほどです。そんな生活の中、風呂など入らないのでしょう。伯爵の手の爪垢がびっしりなのが彼の短命さを表している気がしました。
☆アメリカでの公開が今年の3月10日。興行的には相当苦戦しているようです。どうなるでしょうか。ちなみに冒頭のポスターは、オリジナルのものです。
++++++++++
デップ・ファンだからといって、女性の方は見に行く場合はくれぐれも気をつけてください。見るに忍びないシーンが多いことは事実です。
それと、前述しているように、本作をテアトルタイムズスクエアで見るのはあまりお勧めしません。他の映画館を検討して下さい。大きなスクリーンなので迫力はすごいのですが・・・。
というわけで、もう一度よりより上映環境で見てみたい映画です。それまで、評価は厳しいものにさせてもらいます。