東宝製作
上映時間:112分
2018年9月28日 国内劇場初公開
公式サイト:http://chiritsubaki.jp/
TOHOシネマズ日本橋 スクリーン9 C-9
2018年10月1日(月)11時50分の回
ゴウ先生総合評価: B
画質(1.85:1/Digital): A/A-
音質(Linea PCM): A-
英語学習用教材度: N/A
『劔岳 点の記』(2008)『春を背負って』(2014)の木村大作監督・撮影により、葉室麟の同名小説を映画化した東宝製作時代劇。
散り椿 (角川文庫) | |
KADOKAWA/角川書店 |
脚本は、『八月の狂詩曲(ラプソディー)』(1991)『まあだだよ』(1993)で黒澤明の助監督を務めた、『雨あがる』(1999)『阿弥陀堂だより』(2002)『博士の愛した数式』(2005)『明日への遺言』(2007)『蜩ノ記(ひぐらしのき)』(2013)の小泉堯史。
主演は、木村大作と『時雨の記』(1998)『追憶』(2017)で組んでいる、『永遠の0』(2016)『海賊とよばれた男』(2016)『関ヶ原』(2017)の岡田准一。
その他、奥田瑛二、緒形直人、新井浩文、柳楽優弥、芳根京子、駿河太郎、渡辺大、石橋蓮司、富司純子が共演。
☆絶対に観たかった
カメラマンとしてはあまり評価しない木村大作ですが、監督としてはなかなかのものです。高い評価を受けた『劔岳 点の記』(2008)はもちろん、あまり評判のよくなかった『春を背負って』(2014)も挫折した若者の再出発を静かに描いて面白く感じました。ゆえに、岡田准一が剣豪を演じる時代劇を作ったと聞いたら、どうしても観たくなり、その算段を始めたのでした。
うれしいことに、公開直後に1100円で観られるファースト・デーがやってくるので、その日の近場の4Kプロジェクター設置館のスケジュールと混み具合を調べました。すると、TOHOシネマズ日本橋の11時50分の回がぴったりだとわかり、出かけることにしたのです。
先客の座席状況を確認してから自分の席を決めるやり方なので、到着したのは、11時40分過ぎ。もう少し後のほうが本当はよいのですが、そのままチケット販売機の前に立ってしまいました。
入りは、4割弱。後ろのほうはかなり埋まっていますが、気にしません。かぶりつき派としては、前のほうが好きなので。しかし、前から2列目中央やや左のB-7に先客がいます。前に座っている人がいるのは好みではないのですが、仕方ありません。その人が視野に入らないように3列目中央右のC-9を押さえることにしました。
ところが、4列目の斜め後ろに座った老人が、席をしばしば蹴るのです。仕方なく、後半はC-8に逃げてしまいました。なお、この日は、時代劇ということもあって、年寄りが多く、久々に場内で携帯を鳴らすマナー知らずのジジイがいました。ビニール袋をくしゃくしゃいわせる老人もいるし、マナーが悪いのはシニアばかり。どうにかならんものでしょうか。
☆あらすじ
舞台は、享保15(1718)年冬から翌春までの扇野藩(架空)。
瓜生新兵衛(岡田准一)は、かつて故郷の扇野藩で榊原采女(西島秀俊)・篠原三右衛門 (緒形直人)・坂下源之進(駿河太郎)と並び立つ平山道場・四天王の一人と謳われた剣豪です。8年前に藩の不正を糺そうとして失敗し、放逐された過去を持ちます。
新兵衛の妻・篠(麻生久美子)は、坂下家の出。当初、采女と結婚する予定でしたが、榊原家と坂下家では身分が違いすぎると采女の母榊原滋野(富司純子)が反対したために、新兵衛と結婚したのでした。
浪人となっても新兵衛に連れ添い続けた篠でしたが、京で結核に倒れてしまいます。今わの際に、篠は新兵衛に「私の代わりに家の庭から見える散り椿を見てきてほしい。そして采女様を助けてほしい」と最期の願いを託すのでした。
この8年間に、不正事件に関与したと疑われていた采女の父が何者かに殺され、その犯人は新兵衛ではないかと噂されていました。さらに、その責任を取るために、国家老の石田玄蕃(奥田瑛二)から命じられ、源之進が切腹をしてしまいます。こうして、坂下家は、長女と長男を亡くし、次女の里美(黒木華)と次男の藤吾(池松壮亮)が支えていかざるを得なくなったのでした。
父の非業の死による不利な立場を乗り越える采女のがんばりで、いまは側用人となり、三右衛門も藩主千賀谷政家(渡辺大)の警備担当の役目を与えられていました。
采女は新兵衛にとってのかつての親友にして恋敵であり、不正事件をめぐる因縁の相手でしたが。篠の願いを受け、扇野藩へと戻ってきた新兵衛は、不正事件の真相を突き止めるべく奔走するのでした……。
☆『椿三十郎』への木村流オマージュ
『散り椿』というタイトルとあらすじ、そして予告編を観ただけで、原作は読んでいません。ですが、そこから受けた印象は、黒澤明監督・脚本、三船敏郎主演『椿三十郎』(1962)へのオマージュではないかという予感でした。黒澤に傾倒している木村大作ですから、間違いではないはず。そして、それは正解でした。
しかし、このオマージュ、重いし、暗いのです。『椿三十郎』にあった、軽快さとユーモアがありません。さらにいえば、三十郎が見せる機転の鋭さも新兵衛にはないのです。岡田准一は、軽快さ・ユーモア・鋭い機転を持ち合わせている俳優。木村はどうしてそれを引き出さなかったのでしょう。この結果、『椿三十郎』のすばらしさにははるかに及ばない出来となっています。
ストーリー展開も、国家老の不正を浪人が暴くという主筋まで『椿三十郎』と一緒です。本作は友情と恋愛を持ち込んだところが違うのですが、そのせいで主要登場人物が増え、進行が遅くなり、複雑な展開をセリフで説明しなければならなくなって、物語がテンポよく進んでいきません。
そのうえ、編集も甘く(柳楽優弥演じる平山十五郎のシーンは不必要でしょう)、退屈さを覚えます。経験の浅い菊池智美では、木村を制御できなかったのでしょう。あと15分は短くしておくべきでした。
俳優も、脚本・演出に足を引っ張られています。
岡田准一の殺陣の斬新さと力強さには圧倒されます。三船敏郎とよい勝負です。本当に惚れ惚れします。しかし、三船の重厚さが醸し出されないために、無理して重々しく演じようとしており、『追憶』(2017)同様、空回りしています。これは、岡田のよさを十分に引き出せなかった脚本と演出の問題です。
西島秀俊も、見事な刀裁きを見せてくれるですが、側用人として第一の実力者・石田玄蕃にズケズケものをいえる理由がよくわからず、混乱します。これも脚本と演出の問題です。
奥田英二は、悪者家老の典型演技。目新しいものはありません。その分、底が割れてしまい、早い段階で先が完全に読めてしまうのは面白くないところです。
池松壮亮、緒方直人、宇野十蔵役の新井浩文は、ひととおり。石橋蓮司の田中屋惣兵衛も、特に石橋でなくてもよかったことでしょう。渡辺大の藩主だけが、爽やかかつ伸びやかで、観る者をホッとさせてくれます。
女優に関していえば、麻生久美子の儚さと黒木華の健気さは、イメージ通りでファンとしてはうれしくなります。特筆すべきは、富司純子が悪役を演じたことです。しかし、これも脚本と演出のせいでオーバーアクション気味になり、残念ながら、富司らしさが出ているとはいえません。
文句なしの傑作を期待していたために、悪くない映画だとはおもうのですが、失望感が大きなものとなってしまったのでした。
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画質(1.85:1/デジタル): A/A-
撮影は、『八甲田山 (1977)『駅 STATION (1981)『海峡 (1982)『居酒屋兆治 (1983)『夜叉 (1985)『あ・うん (1989)『鉄道員(ぽっぽや) (1999)『ホタル (2001)『単騎、千里を走る。 (2005)で高倉健と組んだ、『火宅の人』(1986)『寒椿』(1997)『誘拐』(1997)『時雨の記』(1998)『赤い月』(2004)『北のカナリアたち』(2012)『追憶』(2017)の木村大作。
機材の詳細は不明ながら、35mmフィルム・カメラを使用。マスター・フォーマットは、不明(たぶん、DI)。
4Kプロジェクターによる上映。
はっきりいって、木村の画調は好みではありません。フィルムらしさが軟調のほうに振れて、彫りの深いがっちりとした絵を作ってくれないからです。自然光撮影にこだわるのはよいのですが、のっぺりとした絵になるのは避けてもらいたいところでした。これは、高倉健主演作でもそうです。奥行きは見事に出ているのに、もったいないところです。
発色も、場面によって、いろいろ手を加えられているようですが、おおむねあっさりとしたものです。色乗りは、晴れた日の屋外シーン以外は、パワーを感じられません。しかも、どこか白茶けた印象で、雪の日のシーンが見づらくなっています。
暗部情報量も、いまひとつ。黒の沈み込みが足りず、コントラストが低い場合が多いためにために、田中屋襲撃場面での新兵衛の活躍がよくわかりません。A-に落とすか、最後まで悩んだ次第です。
3列目だと、やや見上げることになりますが、割りと楽にスクリーンをすべて把握できます。かぶりつき派の貧乏英語塾長には何も問題ありません。
音質(Linear PCM): A-
フロント重視の音響設計。後方からの音数は少なく、みっちりとした立体音場を愉しむことはできません。絵と同じく、音もあっさりとしたものです。音の出所とスクリーンとのマッチ度も曖昧です。たとえば、雨が降る屋内シーンで、本当は雨がスクリーン右側中心に降らなければならなくても、雨が全体に同じ音量で降っていて、まるで家の中にも雨が降っているようでした。
ノイズフロアは、最低レベル。音をできるだけ間引こうという製作意図のようですが、静けさの表現はよく出ています。音量は、耳に優しいレベル。不快感ゼロです。刀による斬撃音も、控えめです。チェロのソロ演奏は、実にすばらしいもの。スクリーンの奥から聞こえてきます。
セリフの抜けは、文句なし。サ行がきつくならず、発音も明瞭です。音像も膨らまず、口元に寄り添います。
超低音成分は、控えめ。ほとんど記憶にありません。
英語学習用教材度: N/A
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岡田准一の殺陣は、絶品。Blu-ray Discが出たら、その場面だけ編集して見たいくらいです。欲張らずに、余計なセリフやおもわせぶりでオーバーアクションになっているシーンを切った編集にし直して95分程度の映画にしたら、本作は絶対に傑作になりえます。