原題:Murder on the Orient Express (2017)
上映時間:114分
2017年12月8日 国内劇場初公開
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/orient-movie/
109シネマズ木場 シアター4 C-8
2018年1月16日(火)15時40分の回
ゴウ先生総合評価: A-/B+
画質(2.39:1/デジタル): A+
音質(Linea PCM): A
英語学習用教材度: C+
俳優としてはもとより、監督・脚本家としても活躍し、『ヘンリー五世』(1989)でアカデミー主演男優賞・監督賞に、『ハムレット』(1996)で同脚色賞に、『マリリン 7日間の恋』(2011)で同助演男優賞にノミネートされたケネス・ブラナー監督・製作・主演によりアガサ・クリスティの同名推理小説を映画化した米国製ミステリー。シドニー・ルメット監督『オリエント急行殺人事件』(1974)以来のリメイク。
ブラナーのその他の監督作は、『愛と死の間(あいだ)で』(1991)『ピーターズ・フレンズ』(1992)『から騒ぎ』(1993)『フランケンシュタイン』(1994)『世にも憂鬱なハムレットたち』(1995)『恋の骨折り損』(1999)『魔笛』(2006)『スルース』(2007)『マイティ・ソー』(2011)『エージェント:ライアン』(2014)『シンデレラ』(2015)。
脚本は、『グリーン・ランタン』(2011)『LOGAN/ローガン』(2017)『ブレードランナー 2049』(2017)のマイケル・グリーン。
その他の主な出演者は、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、ジュディ・デンチ、ジョニー・デップ、ジョシュ・ギャッド、デレク・ジャコビ、レスリー・オドム・Jr、マーワン・ケンザリ、オリヴィア・コールマン、ルーシー・ボーイントン、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、セルゲイ・ポルーニン、トム・ベイトマン、デイジー・リドリー、ミシェル・ファイファー。
☆65mmフィルム・カメラ撮影作品をネイティブ4Kで観る
もともと、本作には関心がありませんでした。『オリエント急行殺人事件』は、1974年シドニー・ルメット版で十分だろうとおもっていたからです。
ところが、調べてみると、最新65mmHD・フィルム・カメラで全編撮影され、そのDIファイルが4Kではないですか。それがわかれば、その極上(であるはずの)映像を見てみたくなるというものです。
65mm(昔でいえば、70mm)映像は、35mmフィルム・カメラの4倍の情報量をもちます。一般に35mmの情報量が4Kといわれていますから、65mmだと8K相当の情報量です。もちろん、8K上映されている映画館は、世界のどこにもありません。ですが、4Kプロジェクター設置館で観れば、その片鱗が感じられるネイティブ4K上映を楽しめます。
というわけで、近場の映画館に4K上映館を探したら、109シネマズ木場がそうではないですか。しかも、一昨日のポイントカード・デーに行くと1300円ですし、『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)を見たあとに、待ち時間ゼロ(というか、マイナス)で観られます。
そこで、当日『キングスマン:ゴールデン・サークル』のチケットを買うときに、一緒にチケットを求めたのですが、先客ゼロ。とりあえず、エグゼクティブ・シート中央の席を押さえておいたのでした。
『キングスマン:ゴールデン・サークル』が終わったのが、8時51分。それから、走ってトイレに行って、シアター4に入ります。想像通り、エグゼクティブ・シートだと、いくらシネスコ・サイズとはいえ、スクリーンが遠すぎます。4列目に先客が2名いたので、その干渉がない2列目中央に移動しました。すると、すぐに本編開始。この時間の無駄のなさとかぶりつき派にうれしい大画面ぶりにニンマリです。
☆あらすじ
主な舞台は、トルコ・イスタンブール発仏カレー行きのオリエント急行。
ベルギー人の名探偵エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)は、エルサレムで事件を解決し、イスタンブールでの休暇に向かいます。ところが、イスタンブールに着くとすぐに、イギリスでの事件解決依頼が舞い込みます。仕方なく、休暇を断念し、急遽、豪華寝台列車オリエント急行でイギリスに向かうことにするのでした。
乗車2日目、アメリカ人富豪サミュエル・ラチェット(ジョニー・デップ)が、脅迫を受けているから身辺警護をしてくれと依頼してきます。ですが、ポアロは「あなたの顔が気に入らない」とそれをあっさりと断ります。
ところが、その深夜、雪崩で脱線し立ち往生してしまったオリエント急行の車内で、そのラチェットが何者かに殺害されてしまうのです。
鉄道会社から捜査を依頼されたポアロは、列車が雪に閉ざされており、その車両から他の車両への移動もできない状況から、犯人はラチェットと同じ車両に乗り合わせた12人の乗客とひとりの車掌の中にいると確信し、ひとりずつ聞き込みを開始します。
しかしやがて、乗客全員にアリバイがあることが明らかになります。ですが、ポアロはある事件がが13人を結びつけることに気づくのでした……。
☆手堅く面白い
ケネス・ブラナーですから、きちんと楽しめる作品を作ってくれるとおもっていたのですが、その期待が裏切られることはありませんでした。それ以上のサムシングがないのも事実ですが、立派な娯楽映画です。
本作は、推理ドラマの面白さよりも、それぞれの俳優の持ち味を楽しむのが、王道の見方でしょう。その意味で、ルメット版より地味な配役だとおもったのが、率直な感想です。役名は異なっているものが多いのですが、その対応関係をまとめてみました。
ルメット版 ブラナー版
何となくケブラー版の配役をものたりないとおもったのは、ルメット版のカウンターパートよりも存在感がはっきりと劣るルーシー・ボーイントン、レスリー・オドム・Jr、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、トム・ベイトマンのせいです。特に、トム・ベイトマンが登場頻度に比べて、その華のないのがいけません。
とはいえ、それで面白くないかといわれたら、そうでもないのが映画の面白いところです。特に、ジョニー・デップのいかにも悪人面したラチェットが、リチャード・ウィドマークのそれに迫り、この人しかいまのラチェットはいないとおもえてしまいます。ここ数年では、ジャック・スパロウよりもマッドハッターよりも、この役がベストでしょう。悪役のデップ、最高です。
肝心のケネス・ブラナーですが、この天才シェークスピア俳優だと、この程度のベルギー人なりすまし演技では当たり前だとおもってしまうのが、かわいそうなところです。まあ、アクションまでこなす軽快な動きが、新ポアロというイメージではありますが。
その中では、ミシェル・ファイファーがいちばん美味しいところをさらっていて、オスカー俳優のジュディ・デンチ、ペネロペ・クルスたちを圧倒しています。ファンとしては、痛快そのものです。あの美しさを見れば、「老けた」などとはいえません。
デイジー・リドリーが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)のレイ役のイメージを払拭して登場するのには、ビックリ。個人的には、このリドリーがいちばん好きです。
大好きなオリヴィア・コールマンの登場に拍手です。しかも、ドイツ語までしゃべってくれて、ファンとしてはうれしくなりました。
パトリック・ドイルの音楽は、派手さはないものの、映画を盛り上げてくれるのも、記憶に残ります。ミック・オーズリーの編集も手堅く、最後まで飽きさせません。
まあ、この結末でよいのかとか、いまなぜこの小説を映画化しなければいけないのかとか、考えたらきりがありませんが、演技合戦として観ると、その満足度はなかなかのものだと申しあげるしかない貧乏英語塾長なのでした。
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画質(2.39:1/デジタル): A+
撮影は、『スルース』(2007)『マイティ・ソー』(2011)『エージェント:ライアン』(2014)『シンデレラ』(2015)でケネス・ブラナーと組んでいる、『Jの悲劇』(2004)『ヴィーナス』(2006)『マンマ・ミーア! (2008)『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』(2013)『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(2015)『否定と肯定』(2016)のハリス・ザンバーラウコス。
機材は、アリ・アレクサ・65 HDカメラ、パナビジョン・65・HR、パナビジョン・パナフレックス・システム・65・スタジオ65mmフィルム・カメラを使用。マスター・フォーマットは、DI(4K)。
4Kプロジェクターによる上映。
ネイティブ4Kで、8K相当の解像度をもった映像を見るのだと興奮していたのに、実際に目の当たりにした映像は実にナチュラルで、拍子抜けしました。
しかし、見続けていくと、そのナチュラルさこそが凄いことだとわかります。それこそ、解像度が半端ないのです。2K DIファイルの『キングスマン:ゴールデン・サークル』の4K上映を見たあとでは、その差を痛感します。『キングスマン:ゴールデン・サークル』も高画質なのですが、本作のそれと比べると、解像度は劣り、人工的なものを感じます。
空撮や外からの映像はアレクサを使ったとおもわれるのですが、車内、つまりスタジオ撮影では65mmフィルム・カメラを回したらしく、グレインを確認できます。ですが、そのグレインの肌理は実に細かく、驚かされます。前から2列目で、スクリーンのサウンド・ホールまで見えるところなのに、グレインが嫌みになっておらず、ディテール描写が見事なのです。彫りも深いし、奥行き感も十分。映像に関しては、ルメット版をはるかに凌駕しています。本作は、4K UHD BDで観直したいものです。
発色は、ニュートラル。豪華なオリエント急行内部や服装が艶やかです。白一色の雪化粧と真っ黒の機関車と対照的で、目の保養になります。肌の質感は、ナチュラル。違和感はほとんどありません。かつらを取った時のミシェル・ファイファーの哀れなリアルさが、逆に強い印象を与えるほどです。
暗部情報量も、豊富。黒がよく沈みます。コントラストも高く、見づらいシーンは、一切ありません。
シアター4の前から2列目だと、シネスコ・サイズのスクリーンは、そのすべてを視野におさめることはできませんし、スクリーンをやや仰ぎ見る状態になるですが、首が痛くなるほどではなく、迫力満点です。かぶりつき派にはたまらない席といえます。
音質(Linea PCM): A
世界の一部の劇場ではドルビーアトモス、DTS 70mm上映。
109シネマズ木場では、通常のドルビーデジタル上映(たぶん、5.1チャンネル)。そして、このシアター4は、狭い分だけ、濃密なサラウンド体験ができます。しかし、本作の音響設計は、平均的なレベルを超えることはありませんでした。
左右前後に音が定位し、音の出所が正確にわかる音響設計です。濃密な立体音場を形成し、包囲感は十分なものの、移動感は甘く、ケレン味はありません。堅実な音作りです。
ノイズ感は、ゼロ。衝撃音・銃声は重く切れ込んできて、メタリックな不快感はありません。ですが、印象に残るほどでもないのは事実です。とはいえ、音楽の分離感が高いのは、悪くありません。
セリフの抜けは、まったく問題なし。サ行も滑らかで、音像も肥大しません。しっかりと口元に寄り添います。
超低音成分は、出るとかなりのもの。とはいえ、その使用は、列車の脱線時など、限定的なものです。
英語学習用教材度: C+
翻訳は、松浦美奈。
セリフは、かなりの量。俗語卑語も、F-wordがまったく使われず、多少下品ないい回しもありますが、ほとんど気にする必要はありません(PG-13指定)。英語学習用教材として十分に使えます。
アガサ・クリスティの端正な英語小説が原作ですから、立派なクイーンズ・イングリッシュが学べます。まあ、ケネス・ブラナーは、フランス語訛りの英語をしゃべり、ジョニー・デップやジョシュ・ギャッドはアメリカ英語を話すわけですが。
字幕は、松浦さんらしく、ほぼナチュラル。珍しく、いくつか違和感を覚える訳がありましたが、気にするほどではありません。TOEIC800点以上の人なら、字幕を頼りに、7割程度の原文を再現できるはずです。
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気になるところを、アト・ランダムに。
☆原題は、Murder on the Orient Express。直訳すれば、「オリエント急行上の殺人」となります。
☆5500万ドルの製作費で、これまでのところ、アメリカで1億173万ドル、海外で2億4177万ドル、計3億4349万ドルのメガヒット。立派な収益率です。
☆アメリカでは、2月27日にBlu-ray Disc・4K UHD BDが発売されます。いま現在の米アマゾン予約価格は、次の通りです。
ネイティブ4Kとドルビーアトモスが楽しめる4K UHD BDが、買いなのでしょう。
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ケネス・ブラナー・ファン、アガサ・クリスティ・ファン、出演俳優ファン、必見。ぜひとも4K上映館でどうぞ。オススメします!