2012.07.04 Wednesday
アメイジング・スパイダーマン (3D字幕)
原題: The Amazing Spider-Man (2012)
上映時間: 136 分
2012年6月30日 国内劇場初公開
公式サイト: http://www.amazing-spiderman.jp/
TOHOシネマズ渋谷 スクリーン3 C-14
2012年7月3日(木)15時15分の回
ゴウ先生総合評価: A
画質(2.39:1/3D): A+
音質(Linear PCM): A+
英語学習用教材度: C
アンドリュー・ガーフィールドが新スパイダーマンに扮するリブート・シリーズ第1作。共演は、エマ・ストーン、リス・エヴァンス、デニス・リアリー、マーティン・シーン、サリー・フィールド。監督は、『(500)日のサマー』(2009:レビューは、こちら!)のマーク・ウェブ。
「 『アメイジング・スパイダーマン』をどこで見る?」というタイトルで記事を2本書いたくらい、見たかった作品。やっと昨日中学2年の息子を連れて、見てきました。
行ったのは、「続・『アメイジング・スパイダーマン』をどこで見る?」で書いたように、TOHOシネマズ渋谷。ここは、Sony Digital Cinema 3Dを採用していて、本作を上映している数少ない映画館(都内で、唯一?)。
しかも、火曜日だとTOHOシネマズ会員は、3Dでも大人1700円、中学生1400円で見られます。さらに、専用メガネを持っていれば、大人1600円、中学生1300円。利用しない手はないでしょう。問題は、4Kプロジェクターを導入しているかどうかですが、そこまでは確認できていません。
入りは、6割程度。インターネットで購入したときには、前から3列目、4列目はだれも押さえていなかったので、3列目の中央を購入しました。ですが、劇場に来てみると、同列にふたり、4列目にも3人客が座っています。
初めてのスクリーンのために、どこがよい席かよく分かりませんでしたので、息子と相談して選んだのですが、結果的には正解。かなり傾斜のあるスタジアム式客席で、目の前の席が車椅子用となっているために、だれも座っておらず、頭が視野に入ることを心配する必要がなかったのです。
さらに、スクリーンは本作のようなシネスコの場合横15メートル縦6.38メートルもある巨大なものですが、カーヴドになっているために、前から3列目でも、すべてが視野に収まらないとはいえ、圧迫感は少なめです。しかも、ほとんど見上げなくてもよくて、実に快適。次からもスクリーン3に来たら、この列を積極的に押さえようと思います。
早めに来たせいで、予告編を全部見せられることになったのですが、長い長い。20分ありました。これはどうにかならんものでしょうか。
唯一の見ものは、4分30秒ある『アベンジャーズ』の3D版予告編。凸凹の激しい予告編で、画質こそイマイチでしたが、本編の3Dの出来が大いに期待できるものでした。
さて、本編。
正直、大感激。途中、2度涙がこみ上げました。見事な青春映画。個人的には、サム・ライミ&トビー・マクガイアの前三部作を超える感動作だと評価します。
物語は、ピーター・パーカー(アンドリュー・ガーフィールド)がスパイダーマンになる経緯を示すと同時に、グウェン・ステイシー(エマ・ストーン)との恋と怪物リザード(リス・エヴァンス)との戦いを描くものです。
まずもって、ジェームズ・ヴァンダービルト、アルヴィン・サージェント、スティーヴ・クローヴスの脚本がすばらしい。前三部作との違いを痛烈に打ち出します。
ピーターがスパイダーマンになる遠因が、オズコープ社の科学者として働いていた亡き父親リチャード・パーカー(キャンベル・スコット)にあるとしたのが、ミステリアスで実にうまいところ。
結論から言うと、最後まで父親の死に関する秘密やオズコープ社の果たす役割は分からずじまいで、2014年5月2日公開予定の次回作までそのなぞは持ち越されているのですが、それでも不満は起こりません。
なぜならば、ピーターがスパイダーマンになる近因として、父親の秘密を知りたくてオズコープ社に忍び込んだ際にクモに刺されるというだけで、少年ピーターの苦悩が分かるようになっているからです(これ以上、父子の問題をこの段階で提示することは、単に観客を混乱させるだけでしょう)。
さらに、スパイダーマンとして活動しだす理由に、自分のことを何よりも心配してくれていたベン叔父さん(マーティン・シーン)が、自分のせいで暴漢に殺されたことを知り、その暴漢を探すために、ニューヨーク・シティの悪人どもを夜な夜な成敗するという展開も、十分に納得いくものです。
普通の高校生が、超人的能力を得たからといって、いきなり社会正義を振りかざして活動するはずもなく、まずは私怨を晴らすためという発想は自然な流れです。
これだけでも、前三部作との違いが大きいのに、さらにその差が広がるのは、ピーターが自分がスパイダーマンであるということを、必要とあらばだれにでも明らかにするということです。
今回のピーターにとって、マスクは秘密を守るためのものというよりも、スーパーヒーローとしての存在感を出すためのものでしかないのです。
実際、かなり早い段階で、グウェンを始め真実を知ってもらいたいひとにはすぐにピーターは正体を暴露します。この結果、スパイダーマンの神秘性が消えて、ピーターがより身近な存在になり、観客はスパイダーマンとの一体感を得ることが実に容易になるのです。
そのうえで、前三部作のピーターとMJの捻じ曲がった関係とは違い、グウェンとの恋が正攻法に描かれ、見る者の胸を切なくします。日本の最終ポスターは上掲の無粋なものですが、アメリカ版がそれを如実に表します。
朝日を背景に、スパイダーマンとグウェンの恋が見事に示された美しいポスター。しびれます。
このふたりは、冒頭からさまざまな形で接触するのですが、その仲が急速に深化するのは、高校(Midtown Science High School)の廊下の場面(下記写真)。そこで交わされるふたりの爽やかでありながらも濃厚な心の通いあいには鳥肌を立て、目を潤ませてしまいました。
これだけ美しい若者の恋を描いた作品とは最近とんとご無沙汰であったのではないかと思ったほどの衝撃。脚本や演出の巧みさがあるがゆえに、アンドリュー・ガーフィールドとエマ・ストーンの間に想像以上の化学反応が起きています(現実にふたりが恋人になってしまったというのもうなずける親密さです)。
一方、ピーターは、グウェンの愛を支えに、自分のせいで暴走しだしたリザード、すなわち理性を失った父親の盟友カート・コナーズ博士(リス・エヴァンス)を阻止して、NYCを守るためにスパイダーマンとして立ち上がります。
ですが、無理解な警察の追跡のために満身創痍。リザードは、オズコープ社本社タワーからいまにもNYCにいる人びとをすべてリザードに変える薬を空中に散布しようとしているので、それを止めに行きたいのに、脚が動きません。
その危機を救うのが、かつてスパイダーマンに自分の息子を助けてもらった建設労働者(C・トーマス・ハウエル)。NYCにいる仲間たちに呼びかけて、大通りに次々とクレーンを出して、スパイダーマンが糸をつかって移動しやすいようにします。
この場面を見たとき、全身に鳥肌が立ち、涙が滂沱のようにあふれだしました。苦しんでいる恩人を助けるために、立ち上がる。人間ならば当たり前のことを、一介の建設労働者たちがやるのです。その結果、間一髪スパイダーマンはタワーにたどり着き、リザードの暴挙を食い止めます。
しかも、スパイダーマンが自分の娘の恋人ピーターであると知ったニューヨーク市警のジョージ・ステイシー署長(デニス・リアリー)も、ピーターを助け、リザードの犠牲者になります。
孤独を全面に押し出した前三部作とは違い、他者との協力の中で活躍する本作。どちらがリーズナブルかと言われれば、本作がまとも。ガーフィールドの幼い顔立ちが、脚本の主旨をしっかりと支えています。
ここまで前三部作との差別化を図った脚本家たちに、素直に脱帽です。
マーク・ウェブの演出も、脚本の流れを十分に活かしたものであり、その方針にいささかの逡巡もありません。あくまで本作をものすごく賢いけれども、死んだ両親をいつも思い出す寂しがり屋の高校生の青春日記として描いているのに強烈な共感を覚えます。
その象徴は、最後のエンディング。完全なネタばれで申し訳ありませんが、死ぬ直前に父親からグウェンとは付き合わないでくれと約束させられたピーターは、一度はグウェンと別れることを誓います。しかし、我慢ができません。
ふたりが取っている英語の時間、遅刻してピーターが教室に入ります。そして、ピーターが「もう遅刻はしないと約束します」と女性教師に告げると、女性教師が「約束できない約束はするものではありません」と皮肉を言います。すると、すぐ前に座っているグウェンに向けてささやくように、ピーターが「約束は破るためにあるんだよね」と告げ、グウェンはニッコリとするのです。
この青春ドラマまるだしのシークエンスに観客は、ホッ。前三部作で見せたピーターとMJのいびつな恋愛関係が(第1作目のエンディングのあの墓地での寂しい別れを思い出してください)、ここにいたって完全に打ち砕かれたからです。こうでなければ、青春ヒーロー映画は完成しません。すばらしい語り口です。
途中で述べたように、アンドリュー・ガーフィールドとエマ・ストーンは、これ以上ない適役。特に、ストーンの可愛らしさは、言葉にできません。『小悪魔はなぜモテる?!』(2010)、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2011)で証明した実力を、本作でも如何なく発揮してくれました。ミニ・スカートにブーツを合わせた姿が実にキュートです。しびれます。
2012年、これまでで最高の感動作。早い段階で、もう一回見に行くことにします。
++++++++++
画質(2.39:1/3D): A+
超絶的美しさ!
3D映画でこれほど美しい映像を見たのは、記憶にありません。もし4Kプロジェクターを使用していると言われたら、素直に「当然です」と答えるであろう見事さです。Sony Digital Cinema 3Dは伊達ではないようです。
クロストーク(CT:画像のズレ)から申し上げれば、映像には皆無。残念なことに字幕には見られますが、ほとんど字幕を読まないようにしていたので、いらだちはゼロ。気になるひとは、後の席から見たほうがCTは少なく感じられるはずです。
3D効果に関してですが、これも文句なし。前半、ピーターがスパイダーマンになるまでには、それほど派手な場面はないのですが、そこでこそ3D効果が活きています。ピーターの悩める心を滑らかな奥行きで描いているよう。3Dである利点は、確実にあります。
そのうえで、スパイダーマンとして活動しだすと、画面は一転して飛び出し系が支配的に。深い奥行きに、意表を衝く飛び出し(糸、水滴、等々)が重なり、ケレンたっぷり。アクション映画としてのカタルシスが与えられます。
特に、クレバーだと感じたのは、最後解毒剤が空中散布されたときの粉末がふわふわと飛び出すこと。『ヒューゴの不思議な発明』(2011)の雪と同じく、幻想的な雰囲気が映画を盛り上げます。しかも、その直後にステイシー署長の葬式に激しい雨を降らせますから、実に対位法的で、グウェンとピーターの悲しみが募ります。
画質も、最高の解像度。巨大スクリーンまで5メートルもないような距離で見ているのですが、画素などまったく視認できません。細部まですべてを抉り出すくせに(エマ・ストーンの顔の産毛、大写しになったPCの文字、そしてスパイダーマンのコスチュームの繊維の美しさ!)、エッジが強調されることもなく、艶やかで滑らかなのです。
明度があまり落ちないSony Digital Cinema 3Dの専用メガネですから、色あいもナチュラル。暗部情報も豊富で、黒もよく沈み、階調も滑らか。言うことありません。
絶品です。
音質(Linear PCM): A+
絵があまりにすばらしいので、途中まで音には意識がほとんど行きませんでした。逆に言えば、それだけナチュラルで高度な音質であるということです。
音響設計も、映画の進行に伴い、徐々に派手になって行きます。最初は、フロント重視で劇伴のみを後方に回すような音だったのが、段々と効果音、環境音、暗騒音が後方から押し寄せ、みっちりとした高密度な立体音場を作り上げます。メリハリがきいた作りです。
ノイズフロアは、最低レベル。耳障りな部分は、皆無。相当な大音量だと思うのですが、うるささは、ゼロ。周波数帯域も広いし、ダイナミック・レンジも十分。おかげで、後方から細かい環境音が聞こえてきて、サラウンド・ジャンキーを喜ばせてくれます。
セリフの抜けも、文句なし。これほど近くても、声は口元に寄り添い、違和感はゼロです。超低音成分は、出るときには膨大。腹にこたえます。
英語学習用教材度: C
字幕翻訳は、菊池浩司。
セ リフは、多め。にもかかわらず、俗語・卑語はほぼ皆無(アメリカでPG-13指定なのは、アクションシーンが多いため)。十分にテクストとして使えます。CTがあるため、あまりチェックできませんでしたが、字幕はおおむね分かりやすいものだったと思います。
++++++++++
気になるところを、アト・ランダムに。
☆原題も、The Amazing Spider-Man。あえて訳せば、「驚くべきクモ男」。絶対にヒットしそうにない直訳です(笑)。
☆音楽の雰囲気も大きく変わりました。だれが担当したのだろうと思ったら、前三部作のダニー・エルフマンからジェームズ・ホーナーに。弦楽器を多用した悠揚迫らざる穏やかな曲が多用され、本作を単なるアクション映画以上のものにしています。
☆エンド・クレジットの途中で、次回作を予告させるシーンが挿入されています。最後まで席に座っておきましょう。
☆原作者スタン・リーが図書館司書役で登場。リーがヘッドホン(iPodではないのでしょうね、ソニーの映画ですから)で聴いているのは、優雅なワルツ。なのに、後ろではスパイダーマンとリザードが激しい戦いをするという趣向。大笑いです。
☆サリー・フィールドは、老けすぎ。髪の毛に白髪が混じるあたりのリアリズムは、古くからのファンとしては、ショック。もう少し美しいフィールドが見たいものでした。
☆マーティン・シーンは、滑舌が悪い感じ。入れ歯のせいでしょうか。『星の旅人たち』ではそういうことはありませんでしたから、これも演技プランなのでしょう。でも、フィールド同様、そんなことはあまり必要なかったと思うのですが。
☆制作費は、2億1500万ドル。どこまで売り上げは伸びるでしょうか。これから出てくるアメリカの興行成績に、注目です。
++++++++++
来週にも、ネイティブ4K上映していると推測する109シネマズ木場で2D版を見たいと思っています。この感動をもう一度与えてくれるでしょうか。3D版ならTOHOシネマズ渋谷は、有力候補。とにもかくにも、強くオススメします!
「 『アメイジング・スパイダーマン』をどこで見る?」というタイトルで記事を2本書いたくらい、見たかった作品。やっと昨日中学2年の息子を連れて、見てきました。
行ったのは、「続・『アメイジング・スパイダーマン』をどこで見る?」で書いたように、TOHOシネマズ渋谷。ここは、Sony Digital Cinema 3Dを採用していて、本作を上映している数少ない映画館(都内で、唯一?)。
しかも、火曜日だとTOHOシネマズ会員は、3Dでも大人1700円、中学生1400円で見られます。さらに、専用メガネを持っていれば、大人1600円、中学生1300円。利用しない手はないでしょう。問題は、4Kプロジェクターを導入しているかどうかですが、そこまでは確認できていません。
入りは、6割程度。インターネットで購入したときには、前から3列目、4列目はだれも押さえていなかったので、3列目の中央を購入しました。ですが、劇場に来てみると、同列にふたり、4列目にも3人客が座っています。
初めてのスクリーンのために、どこがよい席かよく分かりませんでしたので、息子と相談して選んだのですが、結果的には正解。かなり傾斜のあるスタジアム式客席で、目の前の席が車椅子用となっているために、だれも座っておらず、頭が視野に入ることを心配する必要がなかったのです。
さらに、スクリーンは本作のようなシネスコの場合横15メートル縦6.38メートルもある巨大なものですが、カーヴドになっているために、前から3列目でも、すべてが視野に収まらないとはいえ、圧迫感は少なめです。しかも、ほとんど見上げなくてもよくて、実に快適。次からもスクリーン3に来たら、この列を積極的に押さえようと思います。
早めに来たせいで、予告編を全部見せられることになったのですが、長い長い。20分ありました。これはどうにかならんものでしょうか。
唯一の見ものは、4分30秒ある『アベンジャーズ』の3D版予告編。凸凹の激しい予告編で、画質こそイマイチでしたが、本編の3Dの出来が大いに期待できるものでした。
さて、本編。
正直、大感激。途中、2度涙がこみ上げました。見事な青春映画。個人的には、サム・ライミ&トビー・マクガイアの前三部作を超える感動作だと評価します。
物語は、ピーター・パーカー(アンドリュー・ガーフィールド)がスパイダーマンになる経緯を示すと同時に、グウェン・ステイシー(エマ・ストーン)との恋と怪物リザード(リス・エヴァンス)との戦いを描くものです。
まずもって、ジェームズ・ヴァンダービルト、アルヴィン・サージェント、スティーヴ・クローヴスの脚本がすばらしい。前三部作との違いを痛烈に打ち出します。
ピーターがスパイダーマンになる遠因が、オズコープ社の科学者として働いていた亡き父親リチャード・パーカー(キャンベル・スコット)にあるとしたのが、ミステリアスで実にうまいところ。
結論から言うと、最後まで父親の死に関する秘密やオズコープ社の果たす役割は分からずじまいで、2014年5月2日公開予定の次回作までそのなぞは持ち越されているのですが、それでも不満は起こりません。
なぜならば、ピーターがスパイダーマンになる近因として、父親の秘密を知りたくてオズコープ社に忍び込んだ際にクモに刺されるというだけで、少年ピーターの苦悩が分かるようになっているからです(これ以上、父子の問題をこの段階で提示することは、単に観客を混乱させるだけでしょう)。
さらに、スパイダーマンとして活動しだす理由に、自分のことを何よりも心配してくれていたベン叔父さん(マーティン・シーン)が、自分のせいで暴漢に殺されたことを知り、その暴漢を探すために、ニューヨーク・シティの悪人どもを夜な夜な成敗するという展開も、十分に納得いくものです。
普通の高校生が、超人的能力を得たからといって、いきなり社会正義を振りかざして活動するはずもなく、まずは私怨を晴らすためという発想は自然な流れです。
これだけでも、前三部作との違いが大きいのに、さらにその差が広がるのは、ピーターが自分がスパイダーマンであるということを、必要とあらばだれにでも明らかにするということです。
今回のピーターにとって、マスクは秘密を守るためのものというよりも、スーパーヒーローとしての存在感を出すためのものでしかないのです。
実際、かなり早い段階で、グウェンを始め真実を知ってもらいたいひとにはすぐにピーターは正体を暴露します。この結果、スパイダーマンの神秘性が消えて、ピーターがより身近な存在になり、観客はスパイダーマンとの一体感を得ることが実に容易になるのです。
そのうえで、前三部作のピーターとMJの捻じ曲がった関係とは違い、グウェンとの恋が正攻法に描かれ、見る者の胸を切なくします。日本の最終ポスターは上掲の無粋なものですが、アメリカ版がそれを如実に表します。
朝日を背景に、スパイダーマンとグウェンの恋が見事に示された美しいポスター。しびれます。
このふたりは、冒頭からさまざまな形で接触するのですが、その仲が急速に深化するのは、高校(Midtown Science High School)の廊下の場面(下記写真)。そこで交わされるふたりの爽やかでありながらも濃厚な心の通いあいには鳥肌を立て、目を潤ませてしまいました。
これだけ美しい若者の恋を描いた作品とは最近とんとご無沙汰であったのではないかと思ったほどの衝撃。脚本や演出の巧みさがあるがゆえに、アンドリュー・ガーフィールドとエマ・ストーンの間に想像以上の化学反応が起きています(現実にふたりが恋人になってしまったというのもうなずける親密さです)。
一方、ピーターは、グウェンの愛を支えに、自分のせいで暴走しだしたリザード、すなわち理性を失った父親の盟友カート・コナーズ博士(リス・エヴァンス)を阻止して、NYCを守るためにスパイダーマンとして立ち上がります。
ですが、無理解な警察の追跡のために満身創痍。リザードは、オズコープ社本社タワーからいまにもNYCにいる人びとをすべてリザードに変える薬を空中に散布しようとしているので、それを止めに行きたいのに、脚が動きません。
その危機を救うのが、かつてスパイダーマンに自分の息子を助けてもらった建設労働者(C・トーマス・ハウエル)。NYCにいる仲間たちに呼びかけて、大通りに次々とクレーンを出して、スパイダーマンが糸をつかって移動しやすいようにします。
この場面を見たとき、全身に鳥肌が立ち、涙が滂沱のようにあふれだしました。苦しんでいる恩人を助けるために、立ち上がる。人間ならば当たり前のことを、一介の建設労働者たちがやるのです。その結果、間一髪スパイダーマンはタワーにたどり着き、リザードの暴挙を食い止めます。
しかも、スパイダーマンが自分の娘の恋人ピーターであると知ったニューヨーク市警のジョージ・ステイシー署長(デニス・リアリー)も、ピーターを助け、リザードの犠牲者になります。
孤独を全面に押し出した前三部作とは違い、他者との協力の中で活躍する本作。どちらがリーズナブルかと言われれば、本作がまとも。ガーフィールドの幼い顔立ちが、脚本の主旨をしっかりと支えています。
ここまで前三部作との差別化を図った脚本家たちに、素直に脱帽です。
マーク・ウェブの演出も、脚本の流れを十分に活かしたものであり、その方針にいささかの逡巡もありません。あくまで本作をものすごく賢いけれども、死んだ両親をいつも思い出す寂しがり屋の高校生の青春日記として描いているのに強烈な共感を覚えます。
その象徴は、最後のエンディング。完全なネタばれで申し訳ありませんが、死ぬ直前に父親からグウェンとは付き合わないでくれと約束させられたピーターは、一度はグウェンと別れることを誓います。しかし、我慢ができません。
ふたりが取っている英語の時間、遅刻してピーターが教室に入ります。そして、ピーターが「もう遅刻はしないと約束します」と女性教師に告げると、女性教師が「約束できない約束はするものではありません」と皮肉を言います。すると、すぐ前に座っているグウェンに向けてささやくように、ピーターが「約束は破るためにあるんだよね」と告げ、グウェンはニッコリとするのです。
この青春ドラマまるだしのシークエンスに観客は、ホッ。前三部作で見せたピーターとMJのいびつな恋愛関係が(第1作目のエンディングのあの墓地での寂しい別れを思い出してください)、ここにいたって完全に打ち砕かれたからです。こうでなければ、青春ヒーロー映画は完成しません。すばらしい語り口です。
途中で述べたように、アンドリュー・ガーフィールドとエマ・ストーンは、これ以上ない適役。特に、ストーンの可愛らしさは、言葉にできません。『小悪魔はなぜモテる?!』(2010)、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2011)で証明した実力を、本作でも如何なく発揮してくれました。ミニ・スカートにブーツを合わせた姿が実にキュートです。しびれます。
2012年、これまでで最高の感動作。早い段階で、もう一回見に行くことにします。
++++++++++
画質(2.39:1/3D): A+
撮影は、『シービスケット』(2003)でアカデミー撮影賞にノミネートされたジョン・シュワルツマン。
その他、『ザ・ロック』(1996:レビューは、こちら!)、『陰謀のセオリー』(1997)、『アルマゲドン』(1998:レビューは、こちら!)、『パール・ハーバー』(2001:レビューは、こちら!)、『オールド・ルーキー』(2002:レビューは、こちら!)、『ミート・ザ・ペアレンツ2』2004:レビューは、こちら!)、『最高の人生の見つけ方』(2007:レビューは、こちら!)、『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』(2007:レビューは、こちら!)、『ナイト ミュージアム2』(2009:レビューは、こちら!)、『グリーン・ホーネット』(2010:レビューは、こちら!)。
機材は、レッド・エピックHDカメラに、3ality Technica社のTS-5 3D rigを装着し、同社のSIP (Stereoscopic Image Processor)で処理したもの。マスター・フォーマットは、DI(4K!)。超絶的美しさ!
3D映画でこれほど美しい映像を見たのは、記憶にありません。もし4Kプロジェクターを使用していると言われたら、素直に「当然です」と答えるであろう見事さです。Sony Digital Cinema 3Dは伊達ではないようです。
クロストーク(CT:画像のズレ)から申し上げれば、映像には皆無。残念なことに字幕には見られますが、ほとんど字幕を読まないようにしていたので、いらだちはゼロ。気になるひとは、後の席から見たほうがCTは少なく感じられるはずです。
3D効果に関してですが、これも文句なし。前半、ピーターがスパイダーマンになるまでには、それほど派手な場面はないのですが、そこでこそ3D効果が活きています。ピーターの悩める心を滑らかな奥行きで描いているよう。3Dである利点は、確実にあります。
そのうえで、スパイダーマンとして活動しだすと、画面は一転して飛び出し系が支配的に。深い奥行きに、意表を衝く飛び出し(糸、水滴、等々)が重なり、ケレンたっぷり。アクション映画としてのカタルシスが与えられます。
特に、クレバーだと感じたのは、最後解毒剤が空中散布されたときの粉末がふわふわと飛び出すこと。『ヒューゴの不思議な発明』(2011)の雪と同じく、幻想的な雰囲気が映画を盛り上げます。しかも、その直後にステイシー署長の葬式に激しい雨を降らせますから、実に対位法的で、グウェンとピーターの悲しみが募ります。
画質も、最高の解像度。巨大スクリーンまで5メートルもないような距離で見ているのですが、画素などまったく視認できません。細部まですべてを抉り出すくせに(エマ・ストーンの顔の産毛、大写しになったPCの文字、そしてスパイダーマンのコスチュームの繊維の美しさ!)、エッジが強調されることもなく、艶やかで滑らかなのです。
明度があまり落ちないSony Digital Cinema 3Dの専用メガネですから、色あいもナチュラル。暗部情報も豊富で、黒もよく沈み、階調も滑らか。言うことありません。
絶品です。
音質(Linear PCM): A+
絵があまりにすばらしいので、途中まで音には意識がほとんど行きませんでした。逆に言えば、それだけナチュラルで高度な音質であるということです。
音響設計も、映画の進行に伴い、徐々に派手になって行きます。最初は、フロント重視で劇伴のみを後方に回すような音だったのが、段々と効果音、環境音、暗騒音が後方から押し寄せ、みっちりとした高密度な立体音場を作り上げます。メリハリがきいた作りです。
ノイズフロアは、最低レベル。耳障りな部分は、皆無。相当な大音量だと思うのですが、うるささは、ゼロ。周波数帯域も広いし、ダイナミック・レンジも十分。おかげで、後方から細かい環境音が聞こえてきて、サラウンド・ジャンキーを喜ばせてくれます。
セリフの抜けも、文句なし。これほど近くても、声は口元に寄り添い、違和感はゼロです。超低音成分は、出るときには膨大。腹にこたえます。
英語学習用教材度: C
字幕翻訳は、菊池浩司。
セ リフは、多め。にもかかわらず、俗語・卑語はほぼ皆無(アメリカでPG-13指定なのは、アクションシーンが多いため)。十分にテクストとして使えます。CTがあるため、あまりチェックできませんでしたが、字幕はおおむね分かりやすいものだったと思います。
++++++++++
気になるところを、アト・ランダムに。
☆原題も、The Amazing Spider-Man。あえて訳せば、「驚くべきクモ男」。絶対にヒットしそうにない直訳です(笑)。
☆音楽の雰囲気も大きく変わりました。だれが担当したのだろうと思ったら、前三部作のダニー・エルフマンからジェームズ・ホーナーに。弦楽器を多用した悠揚迫らざる穏やかな曲が多用され、本作を単なるアクション映画以上のものにしています。
☆エンド・クレジットの途中で、次回作を予告させるシーンが挿入されています。最後まで席に座っておきましょう。
☆原作者スタン・リーが図書館司書役で登場。リーがヘッドホン(iPodではないのでしょうね、ソニーの映画ですから)で聴いているのは、優雅なワルツ。なのに、後ろではスパイダーマンとリザードが激しい戦いをするという趣向。大笑いです。
☆サリー・フィールドは、老けすぎ。髪の毛に白髪が混じるあたりのリアリズムは、古くからのファンとしては、ショック。もう少し美しいフィールドが見たいものでした。
☆マーティン・シーンは、滑舌が悪い感じ。入れ歯のせいでしょうか。『星の旅人たち』ではそういうことはありませんでしたから、これも演技プランなのでしょう。でも、フィールド同様、そんなことはあまり必要なかったと思うのですが。
☆制作費は、2億1500万ドル。どこまで売り上げは伸びるでしょうか。これから出てくるアメリカの興行成績に、注目です。
++++++++++
来週にも、ネイティブ4K上映していると推測する109シネマズ木場で2D版を見たいと思っています。この感動をもう一度与えてくれるでしょうか。3D版ならTOHOシネマズ渋谷は、有力候補。とにもかくにも、強くオススメします!